稽古場から、ステップを踏む音が聞こえてくる。規則正しい、リズミカルな震動が、サルバリータの乱れた息遣いを際立たせた。
ラスターシャは、まだ沈黙を貫いていた。
仮に彼女が、第三者である私と同じくらい冷静になることができて、サルバリータの苦悩を理解し得たとしよう。
しかしそれでも、許せるかどうかは別問題なのだ。
指導者として、サルバリータの言葉は矛盾に満ちていた。誰よりもそれを痛感しているのは、他ならぬサルバリータ自身だろう。
プレシアンナとは違うと、彼女は言った。その通りだ。プレシアンナの方が、ずっと純粋である。
良くも悪くも、だが。
それでも、まだ譲れない一線があるのか。サルバリータは懸命に言葉を絞り出した。
「真の表現者に必要なもの……それは怒り。非道を許さない怒りなのよ」
「怒り……?」
ラスターシャの肩がピクリと震えた。
サルバリータの言葉は、彼女なりの赤心を吐露したものだったのだろう。だが、それはラスターシャの気持ちを逆なでするものでしかなかった。
何かを抑えるように、踊り子は視線を床に向けたまま口を開いた。
「……現役時代の貴女は、プレシアンナを超えられなかった。クリス先輩を育てたのは、自分の仇を討たせるため?」
風が吹き抜け、カーテンが裏返った。
「それでダメだったから切り捨てて、今度は私に期待するって?」
ラスターシャはサルバリータに一歩つめよった。サルバリータは圧倒されたように半歩下がり……そこで動けなくなった。
「私がダメだったら、また他に乗り換えるの?」
ラスタは視線を上げた。
非道を許さぬ、怒りに満ちた視線だった。
サルバリータが息を飲む。
高く鋭い、平手打ちの音が響いた。
「プレシアンナがモンスターなら、貴女も同類だわ!」
サルバリータは叩かれた頬を押さえたまま、動かなかった。
冷たい風が吹く。窓の外は、暗雲が立ち込めていた。