人気のない殺風景な広間に冷たい空気が流れる。夜の稽古場に、私の足音が寂しく響いた。
昼間は多くの役者やその卵たちでにぎわう稽古場も、日が落ちればこの通り。
スポットライトの裏側にあるこの景色こそが、ショウビジネスの本当の顔かもしれないと、ふと思う。最近は様々なことが起こりすぎた。
もっとも、私は誰もいない場所で物思いにふけるためにここにいるわけではない。
ライトフォースをかけた杖を掲げれば即席のたいまつの出来上がり。通路に出て、見回りに励む。今日も今日とて、私は警備役として見回りを行っていた。
……もっとも、ここ数日はもう一つ、目的があるのだが……。
と、物音を感じ、私は杖をそちらに向けた。
「私よ、魔法戦士さん。不審者じゃないわ」
闇から浮かび上がったのは、見覚えのある女の姿だった。
「こんな夜更けまでお疲れ様です、サルバリータ殿」
サルバリータは片目をつぶった。昼間の取り乱した姿がうそのように、いつもの彼女だった。
総監督として、仕事が山積みなのだろう。遅くまで残っていたようだ。
「魔法戦士さんも、お疲れさま。警護のお仕事も大変ね」
「最近は物騒ですから。ひどい時には町の中まで魔物が入り込むこともあるとか」
「あら怖い。でもね」
と、彼女は意味ありげに私の顔を見上げた。
「貴方の隣にいるのが、一番危険なモンスターかもしれないわよ」
「ラスタの言っていたことですか」
「嫌われちゃったわね。自業自得だけど」
彼女は自嘲的な笑みを浮かべた。渇いた微笑を、夜が暗く染め上げた。