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フォースマエストロ

ミラージュ

[ミラージュ]

キャラID
: DX235-898
種 族
: ウェディ
性 別
: 男
職 業
: 魔法戦士
レベル
: 133

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ミラージュの冒険日誌

2016-02-17 23:25:44.0 テーマ:その他

ショウほど素敵な商売はない(18)~なりきり冒険日誌【スパスタ職業クエのネタバレ有】

 薄桃色を基調としたメギストリスの都が夜の黒に染まり、街の灯りが城壁を白く浮かび上がらせた。
 白と黒のコントラストが、闇をより深く演出する。プクリポたちの都、メギストリスは華やかな街として知られているが、変われば変わるものだ。
 ……いや、そうではない。町は何も変わっていない。ただ、別の顔を隠していただけだ。
 私は夜景から目を離し、サルバリータを見た。

 思えば、彼女の第一印象は完璧な女指導者、だった。穏やかな物腰で場を和ませつつ、鋭い観察眼で若者たちを導く指導者。
 だが、コスモダンシングショーの一件では、芸術の鬼とも呼ぶべき非情さを見せた。
 プレシアンナとの因縁からは、未だライバルと戦い続ける女の執念が見え隠れする。
 一方で、クリスレイの負傷に動揺し、ラスタの糾弾を跳ねのけることのできない弱さもまた、サルバリータという女の持つ顔の一つなのである。
 嘘は女のアクセサリーとは、よく言ったものだが……。

「……知りたいものですな、貴女の素顔を」

 窓に映ったサルバリータを、私は静かに見つめた。月明かりもない闇の中に浮かぶサルバリータの瞳は、何も映していなかった。

「どれが仮面か、もう忘れてしまったわ」

 またはぐらかそうとしている……わけでは、なさそうだ。俯いた顔に、宵闇が仮面のように覆いかぶさった。
 誰しも、自分自身を演じている。時にはいくつかの、矛盾した自分を演じ分けて生きている。
 かつての名優は、誰かが忘れていった台本を手に取ると無造作にページをめくり、書かれていた台詞を読み上げた。

「嗚呼、私は誰。私は誰? 私は私が分からない」

 サルバリータは窓に向かって問いかける。鏡写しのおぼろな姿が闇にまぎれ、答えは返らなかった。

「悲劇というより、喜劇よね。私が一番、大根役者、ってこと」

 舞台の世界では、演じる役によって役者自身が変わってしまうことがあるそうだ。役に引きずられる、というやつだ。
 役に入り込むタイプの役者ほど、その傾向があるらしい。
 月のない夜空に気弱な笑みを浮かべて、彼女は首を振った。
 私は初めて、彼女の素顔を見た気がした。
 非情な芸術の鬼と、理想の女指導者。二つの役を身に宿した彼女は結局、どちらにもなれなかったのだ。

「もう、忘れてしまったわ……」  と、背後に物音を感知し、私は稽古場の舞台を振りかえった。扉を開く音、そしてゆっくりとした足音。
 カーテンに区切られた小舞台に、何かの気配がある。
 その正体を、私は知っていた。
 ここ数日、毎夜の訪問客だ。

「……少なくとも一つ、思い出せるかもしれませんよ」

 カーテンの向こうを覗き込みながら、私はサルバリータに声をかけた。 
 怪訝な表情で彼女もまた小舞台を覗き込んだ。
 はっと息をのむ。

 夜に溶け込みそうな、小さな影があった。
 影は一歩ずつ、己自身を確かめるようにゆっくりと舞台を歩む。
 そして手にした杖に体を預け、大きく手足を伸ばす。
 舞と呼ぶには余りにぎこちなく、たどたどしい。だが、静寂と闇の中に浮かぶシルエットは一種の神聖な空気を纏い、夜の舞台を厳かな色に染め上げていた。
 窓の外では、雲が流れ、月が顔を覗かせたところだった。
 一筋の月明かりが、スターと呼ぶにはどこかあか抜けない女の、ひたむきな顔を映し出した。 「……!」

 駆け寄ろうとするサルバリータを私は制した。
 クリスレイの隣で舞を見守るのはリルリラである。無茶はさせないはずだ。
 歩けるようになってから毎夜、彼女はここに通い詰めている。少しでも舞台に触れていたい、舞台を忘れたくないというのだ。最初は追い返そうとした私も、今では共犯の一人である。
 クリスレイは歩き始めたばかりの子供がそうするように、一歩一歩、ゆっくりと足元を確かめながら歩いていく。
 四つのころから彼女を見てきたというサルバリータの目に、それはどう映ったのだろうか。
 小さな嗚咽と共にサルバリータは崩れ落ちた。
 雲が晴れ、月光が目元に触れる。
 偽りなきものが、頬を伝うのが見えた。
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