【注:ver3.5後期のストーリーネタバレを含みます】
第一話「災禍」前編
その男達が街に姿を現した時、エジャルナの住民はぎょっとした顔で彼らを振りかえり、すぐに目をそらした。
白のフードを目深にかぶり、同じく白いローブに身を包んだ一団だった。ローブは呪術的な赤い文様に彩られ、ただならぬ妖気を発していた。
集団の先頭には二人の男が並び立つ。共に長い杖を石畳に突き立て、不動の構えであった。
人々の目は、その杖の先に吸い寄せられる。
それは竜族の神官が使う、竜頭像を模した錫杖だった。
遠巻きに見つめる民衆と、騒ぎを聞きつけてやってきた教団の衛兵をぐるりと見まわし、男たちはフードを外した。
衛兵がハッと息をのむ。その顔に見覚えがあったためだ。
一人は濃い紫色の肌に、同じく紫色の長い髪を肩まで伸ばした男。もう一人はターコイズ色の肌に白い短髪の男。
いずれの頭にも、雄々しく天を突く黒い二本角がある。
いずれの顔にも、強く精悍な戦士の表情がある。
長髪の男が一歩、前に進み出た。
「私の名はナドラガ教団の神官ロマニ!」
「同じくドマノ!」
短髪の男もそれに倣った。
「聞け、民衆よ!」
神官ロマニは語り始めた。
民衆よ、騙されるな。神官エステラが革命と称したあの戦いは、背教による追放を逆恨みし、総主教の座を簒奪せんとしたエステラと若い神官達によるクーデターにすぎない。
彼らは育ての親である総主教オルストフをその手にかけ、神官長ナダイアを無残にも惨殺。
そしてエステラもまた地位の独占を狙ったトビアスにより殺害されのだ。
その所業、悪鬼も劣る!
今、大聖堂は悪魔の手に落ちた。竜族の聖地を奪還すべく、我々は聖戦を開始する。
我と思わんものはこの杖の元に集え!
衛兵達からの報告を聞き、私とトビアスが駆け付けた時、彼らは既に街の教会を占拠していた。
ロマニとドマノは、邪悪なる意志ことナダイアに従う神官達の中でも特に有力な二人だった。
先の戦いでナダイアが倒された時、運命を共にしたと思われていたが……どうやら逃げ延びて再起の時を窺っていたらしい。
街に不安が溢れ、教団内の不信と不満が高まったこの時期にことを起こしたのは、敵ながら見事というべきだろう。
トビアスは彼らの主張を聞くと猛り狂い、護衛もつけずに街の教会へと向かった。舌打ちして彼を追いかけるのは私の役目だ。
周囲の家々からは人々の怯えた視線が、トビアスへと注がれていた。