宿の自室に戻った後、俺は今後の方策を考えた。
実は、あの忌々しいウェディの女(呼びにくいので、以下では単に「借金取り」と呼ぶ)からこのような「金銭回収」を受けるのは、これが初めてではない。大体3か月ごとに、俺の前に神出鬼没に現れ、超短スパンで高額の現金を用意せよと要求される。
要求額や準備期間の長さは回によってまちまちだが、返済の厳しさは回を追うごとに増している。
例えば、2回前の時は「3日で100万用意しろ」と言われた。その時、貯金は10万ゴールドを切っており、死に物狂いで各地を駆けずり回ることになった。
あの時も酷かったが、今回は0から稼ぐと考えた場合、1日当たり70万強は稼がないといけない。そんな額、ここまでの人生で一回も稼げた試しがない。商人ならいざ知らず、職人活動の一つもしていない俺にはきつ過ぎる。
幸いというかなんというか、この「一週間で500万ゴールドを稼ぐ」という難題を突き付けられた時点では、俺の総資産は現金だけでも約100万ゴールドあった。再び金銭回収を宣言されたときのため、粛々と貯金してきたのだ。
しかしそれにしても、向こうは俺の全財産の合計額など知らないはずなのに、なぜこうも毎回、こっちの返済能力をいじめ尽す額を的確に示してくるのだろうか。
今回もまたぶっとんで厳しい返済計画を立てなければならない。
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さて、「一週間で500万ゴールドを稼ぐ」という課題が、俺にとってどれだけの苦行であるかを説明しておこう。
500万ゴールドと言っても、読者の中には「屁でもない小金」と認識するものもいるかも知れない(そんな奴がこんな落書きを読んでいるとも思えないが)。
もちろん、俺だって世界経済を見れば、1か月で1000万とか、俺からしたら信じられない大金を紡ぎだす冒険者や商人、大商会があるってことは先刻ご承知である。
しかしそれはあくまで「雲の上の存在」の話であって、その日暮らしをぎりぎりで成立させている俺には露ほどの関係もないことなのだ。
ここでは、そういった金銭感覚が若干麻痺った方々のため、俺の収入内訳などを公開していく。
比較物として、まず武器・防具の例を出しておこう。
武器の場合、錬金効果の付いた星3つの最高級品となると、100万越えはおろか、200万、300万にも届く値段がズラリと並ぶ。
例えば、この間ちらっとバザーの商品欄を見たら、マガツ鳥のツメという現・最高級のツメが約240万。
ギガスラッパーというハンマーならぴったり200万。
両手剣のフューリーブレードときたら、実に約320万もしていた。
同じように、防具類も結構な高級品である。
天宮騎士の鎧の一式を揃えようというなら、適当に品を選んだだけで大体290万にも及ぶ。錬金効果の良し悪しも考慮に入れたら、ひょっとしたらもうちょっと行くかもしれない。
俺はぶっちゃけ、狂った値段だと思うんだけど、残念ながら今の時代、そういう値段の装備品がザラなのだ。雲の上の武具は値段も天井知らずだ。
ただし、これはあくまで「錬金効果の付いた星3つの武器、その中で一番高いもの」という大まかな分類で調べた値なので、良い錬金効果が付いたもの(所謂『使える武器』)とか、安くて強い掘り出し物の武器なんかは考慮していない。
よって、『ええ加減な値段さらして庶民クラス冒険者のやる気を削ぐんじゃねえよコノヤロー』的なクレームが来たとしても、その通り、ええ加減な調査しかしていないのである。この数字は過度に信用してはいけない。
そもそも、これらの武器を扱えるほどのレベルに達していない俺にしてから、既に関係のない話なのである。
翻って、問題の価格・500万ゴールド。
さっき散々、昨今の装備の相場の高さを嘆いておいてなんだが、ああいう値段の武器があるということは、一応はそれを買えるクラスの金持ち冒険者もいるわけで、そう考えると200万も300万も、決して手の届かない値段ではないのであろう。となると、その2倍程度かそれ以下である500万という値段も、割かし大した値段には見えない気がする。
しかし、あくまで『気がする』である。さっきのぶっとんだ値段の武器群を見て、早くも金銭感覚が狂っているだけに過ぎない。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4249677/)