俺が使っている金策手段は、主に3つある。
一つ目はキラキラマラソン。大陸各地に落ちている素材を集めて、バザーに売るという、冒険者にとっては一番手軽な稼ぎ方だ。
収入が確実に入る(拾えば元手金ゼロ)という点では、キラキラマラソンが一番安定した稼ぎ方だが、短期間で大きく稼ぐことはできない。
朝早くから出掛けて夕方近くまで素材を集めまくっても、オーグリード大陸だと合計で1万2千とか、せいぜい1万強くらいしか稼げない。毎日同じ調子で稼いだとして、1週間でやっと8~9万だ。
バザー出品個数限度ギリギリ(99個単位)で出品したり、一か月毎日マラソンすれば話は違うのだろう。しかし俺の場合、前者は「少ない個数でも出品して、出来るだけ早く稼ぎたい」という貧乏性で実行出来ず、後者に至っては考えるだけで気が滅入る。大体、今回はそんなに大量に素材を採集する時間はない。何か別の作業のついでに、地道に拾っていくしかなさそうだ。
二つ目の稼ぎ方は、モンスターの日替り討伐である。レンドアのモンスター討伐隊が発注するモンスターの討伐依頼を受け、指定のモンスターを一定数倒せば報酬金が貰える。
これなら、運が良ければ日に4万くらいの収入が見込めるが、依頼内容は毎日変わるから、収入額はばらける。大抵は3万強4万未満。ひどい依頼リストの場合は最高額でも2万強しかない。
で、俺は依頼リストの引きがあまり良くない。最高額2万程度のリストが3日続くということもあった。
流石にその後は報酬も良くなったが、丸4万も稼げる依頼は滅多に来ない。大体平均すれば、日に3万くらいの収入といったところか。1週間で約21万。これは、朝方に依頼リストを見て、良いものがあったら受けていく姿勢でいいだろう。
最後に、俺の本職である用心棒稼業だ。商人や貴族などが、魔物が出現する危険な土地へ赴くとき、誰かしら腕の立つ者に依頼して、金銭を支払う代わりに身の安全を守ってもらうという商売だ。
これはぶっちゃけ、俺にとっては非常に不安定な手段だ。
用心棒、平たく言うと傭兵は、本来であれば傭兵ギルドに加入しなければならないのだが、実は俺はギルドに所属していない。加入申請の折、方々で既に面倒を起こしまくっていたため、お金の流れにうるさいギルド運営側から突っぱねられたのである。
にも拘わらず仕事があるのは、「相場より安く雇えるから」というあり難くない理由や、「足が付かない用心棒が欲しい」という薄ら暗いニーズが一定数あるからだが、発覚した場合は無免営業により、その時々の国から罰則が下る。逮捕だってザラである。
なるべくなら関わり合いにならない方がいい業界だが、悲しいかな、俺にはモンスター討伐系の職業くらいしか適正がない。手に職付けるなら、今のところ用心棒が一番稼ぎやすい。
収入、雇用期間共に雇用主の言い分で決まるから、相当な博打になるものの、成功すれば1回で10万を超す収入がある。「借金取り」が言った「ケチな商人の依頼」のような薄利はむしろ稀だ。一応、1回の稼ぎだけ見れば、リターンは先述の方法よか多い。
ただし、仕事が入ってくるタイミングがまちまち、金額もわからない、場合によっては長期に及ぶ、勤務中ヘタをすれば減俸・不払い・逮捕処分、最悪、戦闘で重症を負い死亡…と、デメリットも山ほど上がる。
そもそも、依頼が来ていない。今回のケースではあまり頼りたくはない。というか、頼れないだろう。
以上3つの金策を駆使し、1か月間、過労死しない程度に働きまくった場合の月収は、平均56万ゴールド。
日々の生活費(1か月で3千ゴールド強)や冒険の費用(ドルセリンなど必要な道具の調達)、武器の修繕費(1か月1万くらい)を差し引いたら、純収入は50万を切る。
更に、例え安物でも武器を新調したら、最低でも10万の出費は覚悟しなきゃならない。
前置きが長くなったが、まあ、こういう懐事情の俺からしたら、「1週間で500万」など、太刀打ちのしようがない難題なのだ。常套の手段であれば、とても返済期限に間に合わせることは出来ないだろう。
つまり、「常套じゃない手段」に頼らざるを得ない。
正直、気は進まないが、どうせ進むも留まるも借金地獄の針のムシロである。
命を惜しむくらいなら、魔物と戦って討ち死にする方がまだしも華がある。
借金返済のため、どっか得体のしれない鉱山で働き死にするのは、苦しいというより恥ずかしい。
そんなわけで、俺は明日朝いちばんに、岳都ガタラに行く決心をしていた。
目的地は、ガタラのスラム街の奥地、裏業界に名高い「裏クエスト屋」である。
(その2・了)
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4291846/)