「…そうかい、わかったよ。反省していないようだったら、この先の商談もなしだね。説教して悪かった、もう行っていいよ」
「アイワカリマシタ、イゴキヲツケマスゥ~…」
やっと終わったようだ。店主がしゃべり終わってすぐ、俺は生返事をしつつ席を立とうとした。
次の仕事は今日の夜なんだから、今から準備だ飯だ睡眠だと忙しいのだ。これ以上失敗していられないなら、準備にも手を抜けない。さっさと店を出て、まずは腹ごしらえしよう…
とまで思考を巡らせたところで、店主が妙なことを言っているのに気付いた。
「…ってちょっと待て。商談だと?何の?」
「君が持ってきたこの土と雑草、それに元は氷だったこのビン詰めの水のことだよ」
店主は水が入ったビンを振りつつ、俺に向かって言った。
「この商談に乗ってくれるなら、全額とは言わないまでも、君が今回受け取れなかった利益の多少の埋め合わせは出来るよ。君にその気があればだけどね。お金、あればあるほどいいんだろう?」
「マジで!?どんくらい!?」
「50万だ。これらの物品の価値をこれから説明するが、これにはちょっとした厄介ごとも含まれる。50万というのは、この植物群の値段から厄介ごとによるリスクを差し引いた値だ。厄介ごとが嫌なら、ぜひ耳に入れておいてほしい」
「や、厄介ごと…?いくら大雪柱にあったにしても、ただの雑草だろ、それ?」
「逆さ、ただの雑草が奇跡にまみれる神秘の地が、あの大雪柱だ。そしてその奇跡は、偽物であるが故に価値を持つ」
怪しい目を向けつつ、店主は俺の方を見た。
…「偽物であるが故に価値を持つ」?詐欺師が言いそうなセリフだ。騙される可能性が高いかもしれない。
しかし、金が絡むなら逃げるわけにはいかない。面白そうな話なら尚のこと気になる。
「…話、聞かせてくんない?」
と俺が言うと、店主はニコッと笑った。体躯に似合わない無邪気な笑みだ。
「わかった。結構長い話になるけど、さっきみたいに聞き流したりしないでくれよ?」
***
「第一問。『世界樹の葉』とはどんな道具?」
店主は通路を歩きながら、世界一有名な広葉樹の葉の名前を口にした。
酒場風の裏クエスト屋のカウンターの裏側の壁には、隠し扉があった。俺と裏クエスト屋の店主は、その隠し扉を抜けて石造りの通路を歩いていた。
「なんだよ、藪から棒に」
と、俺は店主に返答した。
これはまさか、俺が世界樹の葉を知らないとでも思われてるんじゃなかろうか。
そんな風に思われていたら、いくら俺でも流石に頭にくる。結構な馬鹿者の代名詞じゃないか、それ。
「とにかく、どんなものだと思ってるか、ざっと言ってみて」
「実物を見ているかどうかはともかく、社会に出ていて世界樹の葉を知らない奴は相当な世間知らずだろう。戦闘で敵から致命的外傷を負って死んだとき、強力な回復呪文を使用した相手にかけて蘇生することができる、一回一枚使い切りの奇跡の道具だ。死を覚悟するほどの強力な魔物と戦う一線級の軍人必携のアイテムだし、冒険者にとっても『持っていることが一流の条件』とも言われるほど知名度が高い。世界に一本しかない、貴重な大木から採取される特別な植物…」
世界樹の葉で出来る蘇生って、あくまで回復呪文の簡易版だから、病気や老衰によって死んだ場合は効果がない。
それでも治療が間に合えば、ほっとけば本当に死んでしまうような傷でも復活できる。
冒険者ではない人々にも名前が知れ渡っている、この上なくわかりやすい「奇跡」の代名詞的アイテムだ。
「うん、オッケー。基本的なことはわかっているみたいだね」
「馬鹿にしてるのか?わかんない冒険者がいたら驚愕ってレベルの基礎知識だぞ?」
「馬鹿にはしてないさ。念のため確認しただけ。では、続いて第二問。冒険者たちに世界で最も世界樹の葉を供給しているのは誰か、若しくはどこの機関だと思う?」
「うーん…宿屋協会じゃないか?エルトナのふくびき景品で常駐してるくらいなんだから、あそこが一番の供給源だろ」
「んー、微妙な答えだね。僕としては、モノさえあればいつでも交換してもらえる『ゴーレック氏』と答えてほしかったな」
「あー…あいつか。いや、小さなメダルも閑古鳥でさ、そんな発想が出なかったんだ」
「まあ、ゴーレック氏と宿屋協会のどちらがより多くの世界樹の葉を持っているかは、実は議論が待たれるところなんだけどさ…今回はどちらを答えても正解ってことでいいよ」
「あっそ」
「では、第三問。そのゴーレック氏や宿屋協会に世界樹の葉を卸している組織は、何という名前でしょうか?」
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4474154/)