「…は?卸す?それって、ゴーレックのおっさんの部下とか、宿屋協会の相談役とは別の、何か専門的に世界樹の葉を提供している組織があるってことか?」
「そゆこと」
これは初耳だ。世界樹の葉という貴重なアイテムを大量に仕入れるなんて、かなりの資金力を持ってないと出来ないだろう。そんな組織がマイナーな存在だってこと自体が驚きだ。
あれって確か、「ゴーレックのおっさんや宿屋協会がツスクルの村に交渉役を派遣して、世界樹の葉を受け取っている」って噂があったはずだ。実際にはもう一段階、別の組織が仲介役として活動しているのか。
「それも、エルトナ大陸にある商会ではない。ドルワーム王国に本拠を構える組織だ。僕ら裏の商売の人間にとっては結構なビッグネームなんだけど、君のような商売素人では聞いたこともないかもね」
「…うわ~、何かきな臭い香りがしてきた…」
『裏の商売』関連って時点で全うな組織じゃないじゃないか。そんなとんでもない場所が世界樹の葉を提供してるのか…
「…わからん。ギブアップだ、全然心当たりがない」
「ちょっと意地悪だったね。正解は『ワグナー薬学研究機関』だ。元々はドルワーム水晶宮と並ぶ由緒ある研究機関だったんだけど、とある悪徳研究者が所長についてから、ある厄介な商売に手を出してね。今や商売敵には容赦ない制裁や妨害工作を繰り返す、ドワーフ共のやくざな闇商会だ」
「そりゃまた穏やかな話じゃないな…宿屋協会やゴーレックのおっさんは、そんな危ない奴らと商売してるのか?」
「そんなところだねえ。危ないとはいっても、保守的なツスクルの村と世界樹の葉を巡る交渉をするなんて、本当は王侯貴族にも難しい話なんだ。それがどんな裏技を使ったのか、ワグナー機関は独自の交渉ルート…あくまで噂なんだけどね、それを使って、世界樹の葉を大量に卸してくれる。ゴーレック氏にとっても宿屋協会にとっても、とても重要な交渉機関なんだ」
「へー…って、そんな話はいいんだよ。一体いつになったら、俺との『商談』ってのにつながるんだよ?」
「さっきからその話しかしていないよ。君だってこの話を最後まで聞いたら、そんな悠長なことは言っていられなくなるぜ?何しろ、君はこのワグナー機関に正面から喧嘩を売った体をしているんだから」
「…は?喧嘩を売った?俺が?いつ?」
「つい昨日のことさ」
…とてつもなく嫌な予感がしてきた。
「どうする?やっぱり聞くのをやめるかい?」
「…いや、いやいや、ここまで聞いててそりゃないだろ!最後まで説明しろ」
「よーしよし、その意気だ。大丈夫だよ、この商談に乗ってくれたら、君の安全は保障されるから」
「うっ…」
「さて、導入はこんなものなんだけど、僕の言う『商談』について説明するには、もうちょっと込み入ったところまで説明しなきゃならない。
なにしろこの『商談』の肝になっているのは、ワグナー機関が主に『生産』している主力製品『偽物の奇跡』に関わるものだからね」
「…生産だって?ワグナー機関自体は交渉機関だって話じゃなかったか?」
「それが違うんだよ。ワグナー機関が『ツスクルの村から仕入れてきた』と言っている世界樹の葉が、僕ら闇商人の間では『偽物の奇跡』と呼ばれているんだ」
「は?なんで?」
「それはそこ、実物を見せた方が早いだろうね。もうちょっと待ってくれ」
店主がそう言ったあたりになって、通路の行き先にレンガ造りの壁が見えてきた。
一見すると普通に行き止まりなんだけど、ここまで来ればいい加減先の展開が見えてきた。
店主は壁の中のレンガの一つをリズミカルに何回か叩いた。
するとやはり思った通り、壁が横にスライドして、中から木で出来た扉が出てきた。
「…この施設、一体何個隠し扉があんだよ」
と俺が聞くと、店主はいたずらっぽく、
「企業秘密」
とだけ言った。
いくら山ん中に作るにしても、この手の込みようは何なんだろうか。まるっきり、地上にある街が付属品で、元々この山には先にこの隠れ家が建っていたのだと言わんばかりの規模だ。
かつてこの隠れ家を作った、ガタラの成金町長は想像を絶する金持ちな上に、相当なからくり好きか、あるいは相当に根性のねじ曲がった人だったようだ。とにかく面倒な人物だったに違いない。俺の時代の人じゃなくてよかった。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4474160/)