作者注:
以下、若干の下ネタ表現が入ります。閲覧は自己責任でお願いします。
===================
現在、夜中の11時50分。月はもうじきお天道様を回る頃である。
俺はガタラ住宅村・水没遺跡地区のとある屋敷の前で、大きな茂みの中に隠れていた。
俺の傍らにはウェディの男が伏せの姿勢で、俺と同じように茂みの中にいる。
このウェディの男は、今回の俺の「裏クエスト」の仕事仲間である。
名前はいつもの如く知らない。巷では「白雷の怪傑」と呼ばれているそうだが、他では聞いたこともない異名である。大して浸透していない自称である可能性が高い。
外見は白タキシードに背の高い白帽子、ウェディらしく鼻の梁が高いイケメン面と、非常にけばけばしい。タキシードというところだけ見れば、古典的な「怪盗」のイメージに合ってるっちゃ合ってるが、しかし夜に働く泥棒が白い服というのはいくらなんでも目立ち過ぎではないか。
音ばかりかっこいい異名、泥棒にあるまじきけったいな衣装から、明らかに見栄っ張りであることがうかがえる。
立ってるだけであふれ出る小物感から、俺は勝手に彼を「怪盗もどき」と呼んでいた。
ただし、現在の俺は黒づくめの上着とズボン、ほっかむりにサングラスと、見る人が見ればわかる「古典的な火事場泥棒」の恰好をしているため、怪しさで言えば怪盗もどきとどっこいどっこいである。色んな意味で知り合いには見られたくない恰好だ。
俺こと用心棒と怪盗もどきは、裏クエストのためにガタラの住宅村でこそこそしている。
「一応は」潜伏中であるというのに、何を勘違いしているのか、俺の横で伏せている白タキシードのウェディは、
「暇のついでに、僕の自己紹介をさせてくれないかい?」
という、耳に障る声で前置きをした後、それほど小さくない音量で自分の自慢話を延々と垂れ流している。初めこそ聞き流していたものの、相手は諦める様子もなく、恐ろしくしつこく話し続けてきた。30分程度伏せの姿勢をして腕が痺れているのも相まって、いい加減イライラしてきた。
崖沿いに立ったその屋敷は、白地の高い壁に囲まれた、いかにも金持ちが住んでいそうな建物だった。屋敷の前には、屈強なオーガのボディガードが二人、しかめっ面をして立っている。このウェディの軽薄な野郎の自慢話が連中の耳に入れば、連中もあんまり愉快な思いは出来まい。
というか、作戦開始時刻までは連中に気付かれたくないのに、この男はさっきから何をベラベラ喋ってんだ、いい加減黙れよこのヤロウはっ倒すぞ、という弁を飲み込んで、俺はオーガ共と似たようなしかめっ面を浮かべていた。
ウェディはそんな俺に構うこともなく、歯の浮く話を続けていた。
「まあ、僕ほどになるとね?こと女性関係について困ったことがないんだよ。こっちから積極的に笑顔を振りまいていけば、向こうから女が寄ってくる訳。左を見ればウェディの女の子、右を見ればオーガの令嬢、むしろ向こうが僕のことをほっといてはくれないのさ!」
「男の宝刀がもげればいい」
「こないだなんかはねえ、2か月付き合ってる人間の女の子からドルボートプリズムせがまれちゃってねえ。ちょっと持ち合わせがなかったから『あはは、また今度買ってあげるよマイハニー!』って言ったんだけどね?」
「ジュレットでスリに遭えばいい」
「気付いたら700万持ってかれちゃった」
「既に強盗に遭ってた!」
自慢話だと思って聞いてたらいつの間にか愚痴になっていて、思わず突っ込んでしまった。
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4808614/)