この会話の後、俺はその足でオーグリード大陸のゴズ渓谷まで赴き、1個目の依頼である「いやしの雪中花の採取」クエストを終わらせてきた。少々トラブルがあって報酬は満額受け取れなかったものの、150万ゴールド稼げた。道中のキラキラマラソンや元々の貯金額を合わせると、現在の稼ぎは約250万。目標金額の半分程度といったところだ。
そして現在、2個目のクエストである「雇われ衛兵の陽動」に挑もうとしている訳である。
のだが。現時点で既に成功する予感がしない。
作戦から報酬支払いに至るまで、このクエストの労働環境は俺が現在受けている3つのクエストの中でも最悪だ。本来こんな現場は避けて通るべきだったが、7日目の支払いに間に合わせるには、報酬が即日支払いになっているこのクエストを受けるしかなかったのだ。あまり信用はできないが、あとあと報酬支払いでもめたときに「即日払ってくれるって言ったじゃん!」と主張できるよう、せめても条件が希望通りになってるものを選んだのだが、正直もめること自体は不可避な感じがする。今からクエストが終わった後のことが憂鬱だ。
おまけに、相方が阿保。クエスト成功はすごーく絶望的な気がするんですが。
抑える気も起きないので、俺は素直にため息をついた。
「なんだい辛気臭い。ため息ひとつで幸運がひとつ逃げるという言葉を知らないのかね?そんな気風だから女の子が傍から逃げていくとは思わないのかね??」
「紳士気取ってる癖にジジ臭いことわざ知ってんな…俺はな、将来はキリンにつき狙われる程ビッグな男になるのが夢な訳よ。そのくらいビッグになりゃあ甘いマスクが無くたって、女の子なんて嫌でも寄ってくるさあ!ため息で出ていく負けなんてすーぐ取り戻せら!」
「…『キリン』?って誰のことさ」
キョトンとする怪盗もどき。これは本気で知らないな。
「うっわ、キリンを知らない!?泣く子も黙る暗殺者の王、『二本角のキリン』を知らない!?てめえほんとに闇稼業人かよ、下っ端中の下っ端を自任する俺ですら知ってる都市伝説だぞ!?」
と俺はオーバーに言った。実際にはそこまで有名な噂じゃないが、さっきまで好き勝手にしゃべられた分、仕返しに吹っかけてやりたくなった。
「都市伝説ゥ?どんなにガードの高い女性を一瞬にして篭絡できる伝説のプレイボーイの話とか言うんだったらともかく、胡散臭いおやじの与太話なんて僕の知ったこっちゃないね。ま、僕のことだったら拍子抜けだけどね、ハハッ!」
「すげえぶん殴りてぇこいつ」
「ま、いいや、暇つぶしに聞いといてやるよ。どんな奴なんだい?」
「なんて偉そうなチャラ男なんだ…確かに胡散臭いありきたりな都市伝説だけどな、昔から闇稼業人のあらゆる業界で、もっともらしくささやかれてる噂があるらしい」
長く闇稼業の業界に携わっているベテラン方の間で、こんな口伝が語り継がれているのだそうだ。
「曰く、闇を生きる闇稼業人、商人学者情報屋、暗殺者の類の全てを、表ならぬ裏の裏、闇を更に潜りぬいた闇の底から監視する、『キリン』という者がいる。
ある時は国家の高官付き護衛者、ある時は闇組織の下働き、ある時は闇商売の元締めたる男に近づく愛人として、ありとあらゆるところに『キリン』は潜む。
大抵の悪事は目をつむる。闇が闇たる暴虐を尽くしても静観を決め込む。『キリン』の役割はそこにはない。
『キリン』が動く起点となるのは、闇が更にヒトとしての道を踏み外し、アストルティア6種族の国全土を滅亡へと導く働きをすること。
男が魔族と取引を始めたとき、魔法使いが魔王を生み出そうとしたとき、賢者崩れが国を亡ぼすクスリをばらまいたとき、『キリン』は雷光より速く動く。
そのヒトがどれほど守られていようと、『キリン』はオリハルコンを切り抜きヒトの壁をくり抜いて、必ず道を踏み外した闇の存在を葬り去る。
全ては6種族の社会の安寧のために」
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4873099/)