ただまあ、そこから先が面倒なことになってねえ。
普通の奴だったら、あんなに怒られたら逆に機嫌損ねるか、あるいは酔いが覚めて大人しくなるんですが、その2人組、相変わらず笑い転げてるんですよ。
余程酔いの度合いが酷いのかとも思ったんですが、それにしては背筋がしゃんとしてると気がつきました。まるで、実は初めから酔っておらず、酔ってるフリをしてバカをやっているかのように。
『この2人組、実は何かを企んでるんじゃないか?』と遅まきながら思い巡った頃には、既にコトが動いておりました。
いよいよ堪忍袋の緒が切れたダグラルが、ウェディの方の胸倉を掴んで持ち上げたんですよ。ありゃあ完全に振り切れてましたね。『どうやら、一度懲らしめなければわからないようだな…!』なんて物騒なことも言っておりました。
流石にそろそろあたしが間に入らなければえらいことになると思って、ダグラルとその2人組の方に近づいていったんですよ。
すると、胸倉掴まれたウェディの男が何かを喋った後、右手を振り上げて何かをばらまいたんですよ。そしたらいきなり辺り一面、真っ白くて濃い煙幕がブワッと広がったんです。あっという間に、二歩先が全く見えないくらい煙幕が広がってしまいました。
そこからはもうてんやわんやです。『…貴様らあああああ!!!!!』とダグラルが怒号を上げる中、例の2人組と追いかけっこする羽目になりました。隣のやつの顔も確認できない視界の悪さですから、もうダグラルも2人組も区別がつかない有様で、誰かの足を踏んだやら踏まれたやら、本当に酷い追いかけっこでした。
結局煙幕が晴れて、ウェディと人間の2人組を捕まえるまで3, 4分はかかってしまいました。散々手を焼いたものでしたので、ダグラルとあたしとで一回ずつ、2人の頭を殴ってやりましたよ。あたしはまあ手加減しつつでしたが、ダグラルなんかは本気で殺しかねない勢いでぶん殴って、どちらかと言えば彼を静止する方が大変でしたな。
でもまあ、本当に大変だったのはその後でね…あの夜は本当に、久々に酷い勤務日でした。
ウェディと人間の男の子らが騒いだのは勿論、ダグラルも深夜に大声あげたので、後から住民の皆さんに大量のクレームいただいたのもまずかったですが、それとは別にプライベート衛兵課の課長に大目玉喰らった事案がありましてな。
…え?貴女今なんと仰りました?
…ああーなるほど、貴女大体の事情は既にご存知な訳ですね?で、今はあたしらに事実確認をしにきてると。こりゃあ失敬、長話して配慮に欠けておりましたな。
そうですそうです、貴女のおっしゃる通りです。
全貌は後からわかったことなんですがね、そのウェディと人間の2人組、どうも陽動だったようなのですよ。本命の輩が何かしらの準備をするためのね。陽動する時間が充分だったかは怪しいですが。
その2人組を屋敷備え付けの簡易牢に閉じ込めた辺りに、とっくの前にコトが動いてしまっておることに気付きました。
総勢10人くらいの賊どもが、あたしらの雇い主、コールタールさんの屋敷に侵入していたんですよ。
その時、賊どもはあたしらでなんとか撃退したんですが、代わりに奴ら何を思ったのか、屋敷の坊ちゃんが大事になさってる犬をさらっちまったんです。
コールタールさんやご家族にケガはなかったんですが、賊どもの動きを読み切れんかったあたしらは猛烈な説教を喰らいました。おまけに、簡易牢に捕えていた2人組もいつの間にかいなくなってしまったし、その夜は失態まみれでした。
全くもう、してやられましたよ、あの男の子らには!今度あったら小言のひとつやふたつ言ってやりたいですわ!ハハッ。
さて、あの夜について言えるのはこのくらいなんですが…代わりにあたしからもいいですかね?
察するに、貴方はこの続きを知ってるご様子。言える範囲でいいんで、この老骨にあの夜起こったことの続きを教えてもらっても良いですかな?
いえ何、これでも好奇心が強い方でしてな、大きな事件の臭いがするから、触りぐらいは中身を知っておきたいのですよ。
…おお、よろしいですか?是非ともご教授願います」
(続き・http://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/4923363/)