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オーガの衛兵二人に捕まった後、俺と怪盗もどきは豪邸の影に連れていかれた。
俺らが正面で大騒ぎした豪邸は、崖の側に建っていた。俺らが最初に潜んでいた茂みから見て左側に、10メートル程の高い崖があるのである。豪邸の「影」というのは、豪邸の側面と崖に挟まれた影の側のことだ。
こういう外から見えにくい場所に連れ込まれると、どういう目に遭わされるかわからないから、自然と体が強張った。相手は闇稼業人じゃなくてカタギ寄りの衛兵だから、そこまで非人道的な扱いをされることは無いだろうが、さっきまで散々手こずらせた手前、腹いせに何かしらはされそうだ。現に、さっき結構本気で頭を殴られた。目から火花が散りそうな痛さだった。
屋敷の裾を抜けて奥まで連れて来られると、そこには鳥かごのような簡易牢が建っていた。
ベテラン風の衛兵の一人がその簡易牢の扉を開けると、俺らの腕を捻じ上げて持ってるもう一人の若い衛兵が、ドンッと乱暴に背中を押して牢の中へ押し込んだ。
俺と怪盗もどきは前につんのめって、顔から牢の床に突っ込み、
「あいてっ!」
「あだっ」
と二人揃って間抜けな声を出した。
「ここで頭冷やすんだな、バカども」
と、若い衛兵が吐き捨てるように言うと、扉をガチャンッ!とやはり乱暴に締めた。
「ひでえや、暴力衛兵の横暴だー」
と、俺が相変わらずの軽い調子で口答えすると、若い衛兵は簡易牢を蹴りつけた。ガァンッという金属質な反響音が響く中、若い衛兵は鬼の形相を浮かべていた。めっちゃおっかない。
「気持ちはわかるが落ち着け、ダグラル」
とベテラン風の衛兵が若い衛兵に呼びかけると、若い衛兵は一瞬、ぐっ…という苦々しい表情を浮かべて、ベテラン衛兵の方を向き直った。
「…すみません」
「精進せえ」
と、二言だけやり取りをした二人の衛兵は、側から見ても結構深い信頼関係にあるように見えた。
「こいつら、いつまで置いとくんですか?」
「いつも通りなら、朝まで放っておいて、酔いが覚めた頃合いで解放する。よくあるケースだから覚えておけ」
『よくある』って言ったのかこの人。俺らみたいな酔っ払い対応を何回もやってるらしい。散々困らせた立場で言うのもなんだけど、頭が下がる。
「…もっとも、彼らが本当に酔っ払いならな。どうも嫌な予感がする」
「は?嫌な予感、ですか?」
「単なるカンだが…ダグラル、これからここのご主人に今日の騒動を報告しに行く。付いて来い」
「はっ!」
と会話を終えた二人の衛兵は、俺らの側を離れて屋敷の正門の方へ去っていった。
衛兵たちが屋敷の角を曲がり、完全に姿が見えなくなったのを確認した後、怪盗もどきが話しかけてきた。
「…タイムは?」
俺は腕時計を確認した。0時19分47秒を回ったところだった。
「9分47秒」
「あ、微妙に足りない?ちょっとまずいんじゃないかねこれ」
怪盗もどきが少しだけ焦ったような声を上げる横で、俺は空を見上げた。牢屋の真上は屋敷の屋根がかかっておらず、花火が打ち上げられてもちゃんと目視確認できそうだった。
しかしその肝心の花火は、まだ上がってない様子だった。
「まだ花火上がってないし、これ大分足りなかったやつかも…あー頭も背中もいってえ…ぶん殴るに飽き足らず本気でタックルしやがって。ちょっとした鯖折り食らった気分だぜ。あれがなけりゃ、もうちょっとタイム伸ばせたな」
「若い方はともかく、ご老配の方の衛兵は心なしか冷静な雰囲気じゃなかったかね?」
「さっきの口ぶりだと、酔っ払いの対応に慣れてんのかもなあ…あれ多分、俺らが本気で酔ってないの気づいてるぜ」
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