屋敷を回り込んで、予め下見していた森の中の逃亡経路を進んでいると、怪盗もどきも追いついてきた。ぜえぜえと荒い息をしている。
「ハァッハァッ、ブハァ…いやあ、もう二度とあんなことしたくないな…やっぱ君の作戦最悪だよ」
「その割におめー、ど派手なことしてなかった?」
「ギクッ」
「しかも『モチモチのタネ』使わなかったな?お前、あそこまで強いんだったら、キラーマシンに3枚下しにされる心配ないじゃんよ」
「ギクギクッ。な、何の話?僕がいつ鉄頭を素手で割るような野蛮な真似をしたって?」
「嘘ヘタクソかお前」
「君は一体何を勘違いしているのかな?この優雅な僕がそんな筋肉質な荒業でコトを乗り越えるわけがないだろう?」
「いや、あの月明りで見間違える訳ないだろう…」
「と・に・か・く!僕は何も野蛮なことはやってないし、君は何も見なかった!いい!?」
必死に詰め寄る怪盗もどきを見て、なんとなく深めな事情がありそうなことを察した。
なんだ、訳アリかこいつ。馬鹿で軽率なくせに強いとか、どんな事情を抱えてるんだか。
ま、興味もないし、深入りはしないでおこう。
俺は軽く手を振って、「わかったよ」という風なジェスチャーをした。怪盗もどきも安心したようだ。
「で、で、でさ~?この後はどこ行くの?やっぱり『裏クエスト屋』?」
「おおよ、他に行く場所もねーだろ。あの強盗団の連中が逃げおおせたにせよ逃げ遅れたにせよ、あそこに行って事の経過を確認しなきゃ話が始まらない。こっから先は連中との交渉にかかってる。一体いくら報酬にふんだくれるんだか…いっそあの犬、隙見て攫ってこれればよかったなあ、自力で財宝探した方がまーだ望みあるわ」
「だよね~…あいつら、キラーマシンに対抗するチカラも度量もなかったよね…みっともないったらありゃあしない」
「ぜっっっっっっっっったいカネ持ってないあいつら。あんなナリじゃ、強盗なんかまともに出来っこないぞ。こそ泥やった方がまだ稼げてるだろ」
「ゥワンッ」
「こそ泥は君の恰好だよ…あ、こそ泥は君の恰好じゃないかね?人のことが笑える立場なのかね?」
「おせぇよお前、怪盗口調復帰するのがおせぇよ。すっかり普通の口調になってるじゃねえか。やっぱりキャラ作りだったな」
「ワンワン」
「くぅぅ、何回やっても口調がもとに戻っちゃう…やだなあ、優雅な出じゃないことバレちゃう」
「誰もそんなこと思ってねーから、いらない心配すんなよ」
「くぅん」
「なにさ、さっきから犬みたいな声上げて」
「え?犬の鳴き真似してんのはそっちだろ?」
「僕がいつそんなことをしたよ?」
「いや、俺だってやってねえよ」
「…………………」
何かおかしいぞ。具体的には、俺ら2人以外に何者かが会話に参加してるような違和感。
…いや、違和感どころか。この足元をくすぐってるふくよかな毛足は何だ?
俺と怪盗もどきは足元を見た。
「くぅん…」
真っ白い毛の中型犬が、俺らの顔をつぶらな瞳で見ていた。
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