「えーっとだな、取り敢えずお前の名前…つーかあだ名は『化け狸』ってことでいいのか?」
と、俺はプクリポの方に向き直って話しかけた。
「どうとでも呼びな。妖怪に固定の名前なんぞ期待すな。なんなら『美少年』でも『赤鬼もどき』でも『毛玉』でもいいぞ?」
「ややこしいな。なんか他に適当な名前がないなら、俺もそのまま化け狸って呼ぶぞ?」
「おうよ」
「大見得切ってもらった手前で悪いけど、さっきのだけじゃお前が何者なのかさっぱりわからん。もうちょい会話が成り立つ形式で説明してくれ。懇切丁寧に」
「俺が何者かだなんて、そーんな哲学的な話振られても困るね。お前はどう思うよ?見た目通りのプクリポだと思うか?案外プクリポの皮を被ったオーガかも知れないし、もっと別の何かかも知れないぜ」
「話をややこしくするな!誰も哲学的な話なんか振ってねーよ!」
あーこれ、話せば話すほど疲れるタイプだ。迂闊なこと言ったら無限にからかってくる輩の話し方だ。短期決戦に持ち込まないと、こっちのスタミナが切れる。
「お前が何者かって質問は取り下げる。もっと単刀直入に聞くぞ」
「おう」
「お前は一体何しにここへ来た?」
「そりゃ勿論、お宝をいただく為だ。お前らが付け狙っている、世に言う『コルセットの埋蔵金』ってものを、俺も探してんのよ」
…ああ、来ちゃった。この店に潜入してる時点である程度推測できたけど…
悩みどころが増えた。今更埋蔵金を狙う「競争相手」が増えるのか。
「本当かよ?妖怪が金目のものを欲しがるなんてことがあんのか?」
「おおともよ。このご時世、妖怪よろしくちゃらんぽらんに生きようと思っても、どうやっても金銭は入り用でな?世界の豪邸に潜り込み、いくらか金品を拝借していかなきゃ生活できない身分なのだよ。全く世知辛いもんだぜ」
よよよ、とわざとらしい嘘泣きを入れる化け狸。
「あーそーかい。お前の金銭事情なんか知ったこっちゃない。埋蔵金が欲しけりゃとっとと探しにいきゃいいじゃないか、なんでこんなとこにいやがる」
「あ、あー、いいのかなーそんな冷たいこと言ってー。こっちは親切心で君らを誘おうとしてるんだぜ?」
は?と聞き返すよりも早く、化け狸はふところ…というか、素肌の腰の辺りから、折りたたんだ羊皮紙を取り出した。
…いや、素肌から物が取り出せるはずがなかった。よくよく見たら、このプクリポ、薄い毛皮のパンツをはいていた。羊皮紙はそのパンツから取り出したものだった。もうどこから突っ込めばいいのかわからん。
「さて、これはなんでしょうか」
「…いや、おい、まさか。お前パンツの中になんてもの忍ばせてるんだ。もうちょい大切に扱えよ、大切な情報だろおい」
「お?察してらっしゃる?なら話が早いな。大丈夫、前には回してない」
「後ろでもそんなに変わんねぇよ!」
え?え?と全然話について行けてない怪盗もどきを尻目に、化け狸は話し始めた。
「こいつはな、俺様が直々に写し取った宝の地図だ。見よ!」
と、化け狸は羊皮紙を両手でパンっと広げ、俺と怪盗もどき、そして店主に見せてきた。
なるほど、それはいかにもな宝の地図だった。古めかしい羊皮紙に色あせた絵の具で描かれたそれは、ぱっと見年代物の雰囲気を醸し出していた。「写し取った」と言うあたり、本当に古いわけではなさそうだが。描いている場所は、どうやらガタラ原野の全域らしい。地図の左の方にウルベア地下遺跡らしきマークが描かれているのが見て取れる…
ということを確認した辺りで、化け狸は早々に地図を引っ込めてしまった。
「おっとこっから先は有料会員限定」
と化け狸はのたまった。何言ってんのこの毛玉。
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