作戦会議後、裏クエスト屋を出たのは深夜1時のこと。その後30分程度で各々が服の着替えと装備の仕込みを済ませ、俺と怪盗もどき、化け狸の3人は岳都ガタラを出発した。
月明かりの照らすガタラ原野は、夜中は町に引きこもって活動している俺にとって、思いの外明るい世界だった。街灯が置かれた岳都ガタラの出入り口だけでなく、それなりに町から離れた位置に来ても、松明さえ灯せば移動に難はなかった。
町中と違って、夜の郊外は魔物が活発化する危険地帯ではあるが、それも俺や怪盗もどきのレベル帯なら特に問題はなかった。時折近づいてくるプテラノドンなどの魔物を蹴散らしつつ、大抵は適当に撒いて、俺たちは目的地に向かって移動した。
行き先はガタラから東にある遺跡の森を抜けた場所、遺跡の山積する川のほとりである。
「おい、30分ものんびりしてて良かったのか?連中(強盗団)とっくに埋蔵金確保しちゃったんじゃねーの?」
と俺が疑問を投げたところ、化け狸は
「モーマンタイ(問題無し)だモーマンタイ。地図を取られたのは痛手だがな、30分程度の探索なら入口を見つける程度が関の山、宝そのものまでは確保できんさ」
と、自分を担いでいる怪盗もどきの背中の上から答えた。
なんで怪盗もどきが化け狸を担いでいるかというと、聞けば化け狸は、最高の職業レベルが50程度しかないらしい。そのため、俺や怪盗もどきよりも大分足が遅かった。
で、俺と怪盗もどきでジャンケンして、負けた怪盗もどきが化け狸を背負って走っているというわけだ。
「とは言え、だ。別に時間が有り余っているというほどでもなし、このまま走りながら作戦会議と行こうぜ」
と、化け狸が切り出した。
「まず、埋蔵金が眠っている洞窟についてだが、実を言うと、俺様が持ってる宝の地図は洞窟の内部構造まで描いてなくてな。入り口からちょっと進んだとこまでしか歩いたことがねえ。だから、洞窟の入り口から埋蔵金の場所までの細かい道順は知らん」
「マジかよ。こんな深夜にダンジョン探索なんてまっぴら御免だぞ。魔物がいるような場所だったら尚更だ」
と俺はぼやいた。松明があるとはいえど、行先は不測の事態が起きやすいダンジョンだ。あまり迂闊なことはできない。
「いや~、少なくともちょっと偵察した範囲では、魔物が住んでる気配はなかったぜ?それに俺様の勘では、内部はさほど広くねえ。奥行はせいぜい、ガタラ原野の川の幅程度だ。中は迷路になってるが、変に曲がりくねってるせいで距離感がわかんなくなるだけで、大した苦労はしないはずだぜ」
「何ぃ?なんでそんなことがわかる?」
「職業柄、ダンジョン内の迷路には数回入ったことがあってな。一度入っちまえば、詳しい構造はともかく、大体の広さはなんとなくわかるもんなんだぜ」
「ほー…」
化け狸の言葉に素直に関心する。建造物構造の当たりが付くというのも、盗賊(というか泥棒)には必須の能力なのかもしれない。
「で、だ。ダンジョン入ってからの方針なんだが、相手方の詳しい人数もわからないし、戦術立てるのもあんま得意じゃねえから、ざっくりしたとこだけ決めて、後はアバウトにやってこうぜ」
「異議なし。昨日の今日っていう面識で、いきなり高度な連携ができるわけねーしな」
「うーん、僕も構わないけど…人数だけは当たりつけた方がいいんじゃない?僕ら3人だけだけど、人数わかってるだけでも注意の仕方が変わってくると思うんだ」
と、怪盗もどきが口を挟んできた。流石に戦闘方針の話になれば、ここまでのように化け狸の説明を聞いているだけではいられない。戦闘の作戦如何によって、俺らの命運が決まってしまうのだから。
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