厄日だ、とドワーフのチャムクは思った。
いや、そもそもここ数年、厄日じゃない日などなかったように思える。
女絡みのちょっとしたいざこざがあって、ちょっと借金をこさえたのが大体1年前のこと。ほんの少し働けば返済できる額だ~などと思って放っておいたら、いつの間にか利息が膨れに膨れ上がり、今となっては500万もの負債を抱え込んでしまった。
しかも、ある闇金業者に金を返すために、別の闇金業者から金を借りて、その業者への返済はまた別の業者から…などということを繰り返したせいで、色んな業者からにらまれてしまい、過激な取立人から追われる身になってしまった。具体的には、明日明後日に内臓でも売って金を作らなければタマを取られてしまうレベルである。
それで着の身着のまま、取立人から逃げ回っていた矢先、旧知の仲であるオーガのオルカから、埋蔵金発掘のお誘いを受けたのだ。
自分も大概馬鹿だと思っているチャムクだが、それでもオルカの頭の悪さには呆れてしまった。「ピッキーとスカルガルーのどっちが強いのか」という賭け試合に何万ゴールドも費やしていた頃と全く変わっていない。社会構造の底辺を這いつくばるロクデナシどもの間でも信じられていない「コルセットの埋蔵金」を目当てに、一発逆転の望みをかけるとは!!
もちろん、チャムクは表立ってそれを指摘することはない。そんな今更なことを指摘したって、地面にめり込む勢いのゲンコツで誤魔化されてしまうだけだからだ。
その場の勢いと暴力だけで生きてきてしまった男、それがオルカというオーガだった。
「オイ、まだ見つかんねえのか!」
と、オルカはもう何度目とも知れない怒鳴り声を上げた。
イラつく気持ちもわからなくはない。例の豪邸に忍び込んで、飼われている犬の首輪に地図が仕込まれているを見つけたまでは良かったが、その後の工程はトラブルだらけだった。
まさかまさかのキラーマシンの登場に、豪邸に忍び込んだ面子は大混乱に陥った。「裏クエスト屋」経由で雇った助っ人のおかげでなんとか逃げおおせたものの、今度は攫ってきた犬の首輪を外すのに難儀し、剣で無理やり首輪を切断するところで時間を喰ってしまった。その時犬を逃がしてしまったが、もう構ってもいられなかった。
そしてどうにか、待機していた仲間と合流して、地図を頼りに埋蔵金が眠る洞窟までやってきた。ところが、地図に載っていたのは洞窟の「入り口」のおおまかな場所までで、しかもその入り口は土と蓋で巧妙に隠されていた。入り口を探し出して洞窟に侵入するまでに、またしても時間を浪費してしまったのだ。
そして今、仲間たちは4~5人でいくつかの班に分けて、洞窟の内部をくまなく探しているのだが、まだ埋蔵金は見つからない。なにしろメンバーの全員がスラム暮らしのコソ泥崩れ、慣れないダンジョン探索に手間取っているのだ。効率がいいはずもない。
まあ要するに、ほとんどの計画が思い通りにいっていないのだ。立案者としてはわめきたくもなるだろう。
「まあまあオルカさん…ここまで来ればもう少しの辛抱ですから…」
チャムクは心にもないことを言ってオルカをなだめた。もちろん、チャムクもプロではないので、どこを探せば埋蔵金が見つかるのか、なんてわかるはずもない。単なる希望的観測だ。
「ああ!!?テメェ、適当なこと言ってんじゃねえぞ!!何べん同じこといってやがんだ、いっくら待っても見つからねえじゃねえか!」
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/6113592/)