「そらあ、みんなまだこういう場所での探索に慣れてねーからですぜ。大丈夫、もうそろそろ目が慣れて、探索したところとそうじゃないとこの見分けがつくようになるはずだ。そうなればもう少しサクサク探せるように…」
「チンタラやってんじゃねえよ穀つぶしども!!ここに来るまでにどんだけ時間潰したかわかってんのか!!?俺たちにゃ時間がねえんだぞ!!!このままじゃ、あの忌々しい『裏クエスト屋』の追手が追いついちまうかもしれねえ、そうなったら埋蔵金どころじゃねえ!!」
「だから、怒鳴ってどうなるもんでもないでしょう…ね?もうちょっと抑えて…」
「ああ、テメエはまだ気楽でいいよな!!普通の金貸しに金借りてるだけだ、借金だって大した額じゃねえんだろ!!」
流石にカチンときたので、「『普通の金貸し』に借りてるんだったら、こんなとこに出張ってないんだけど」とチャムクは言いそうになったが、かろうじて抑えた。
「俺は違うぞ、違うんだぞ!!!やべえところの金に手を付けちまった…ここで埋蔵金を手に入れなきゃ、本気で破滅しちまう!!!『アイツ』のところに送り込まれちゃお終いだ…」
「?アイツって一体誰の…?」
「ボスーッ!!見つけましたぜ!!」
チャムクがオルカの話の続きを聞き出す前に、仲間のテソクが割り込んできた。
「何!?何を見つけた、まさか…」
「宝箱だ、この通路の奥に赤い宝箱が置いてある!きっと埋蔵金だ!!」
「…おっせえんだよ愚図どもが!!!今行く!!!」
オルカがテソクを蹴飛ばして、通路の奥に駆け出した。跳ね飛ばされたテソクが壁にぶつかって呻く。お気の毒に。
遅れてチャムクも駆け出した…が、脳裏にはオルカとの会話の内容が引っ掛かっている。
良くも悪くも、オルカは怖いもの知らずで通してきた男だ。そのオルカが一瞬とはいえ、『アイツ』の話をしたときに青い顔を浮かべ、身震いを起こしていた。
オルカを恐れさせる『アイツ』とは、一体誰のことなんだろうか?
***
その通路は、先ほどチャムクとオルカが会話していた場所から、何度か角を曲がって進んだ先にあった。他の場所と比べて、壁の劣化が進んでいるらしく、ところどころに大きなヒビが走っていた。
ジムチャとノーマン、ベリックが見張っている通路の行き止まりには、確かに赤い宝箱が置いてある。直近の角から5mほど離れた位置だ。
だが、大分小さい。その気になれば、プクリポや人間の子供でも、抱えて持ち運べる程度のサイズだ。
「お前ら、まだ開けていないな、開けていないよな!?持ち逃げは絶対許さないからな!!?」
オルカが3人に詰め寄り、全員が無言で首肯した。事前に「埋蔵金はオルカが最初に確認する」と決めていたので、まだこの場にいる誰も、宝箱の中身を確認していなかった。
「な、なあ、なんかおかしくないっすか?埋蔵金が入ってるにしちゃ、その…箱が大分小さいような…」
「…中身が宝石かなんかなんだろ、サイズなんか関係ねえ!」
またオルカが怒鳴る。ようやっと目的の代物が見つかったのだ。宝箱の中身が気が気でないのだろう。
オルカが宝箱の方に近づいていく。チャムクを含めた残りの4人も、通路の奥の方に進んでいく、その矢先。
---カッカッカッカッカッという音が通路に響いた。何者かの足音だ。
チャムクは一瞬、他の場所を探していた仲間たちの足音かと思ったが、すぐにそれは違うだろうと思い直した。
先ほどの宝箱発見の知らせは、自分たちしか受け取っていないはずだからだ。
通路にいる5人全員がバッと振り向いた。全員に緊張が走る。
同時に、チャムクはどうしようもない失敗に気付いた。
通路は袋小路、この状況で追手に追いつかれたら、どこにも逃げ場がなくなる。
「オルカさん、きっと追手だ、逃げましょ…!」
と、チャムクが後ろにいるオルカに声をかけようとしたとき。
ダンジョンの角から何か丸いものが飛んできて----
バキッという、自分の顔面から響く音を聞いたのを最後に、チャムクの意識は途切れた。
ああ、やっぱり今日は厄日だ…と、薄れる意識の中、チャムクはため息をついた。
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/6113594/)