夢を見ている。
目に見えるのは、数字ばかりだった。
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そうした調子の数字の羅列が、延々と並べられた視界だ。
右を見ようと左を見ようと、数字ばかりが目に映る。まるで目に直接、数字だけを書き殴った紙を貼り付けられたような感じだ。
数字以外、何もない視界だった。
一体、いつからそんな状況に身を置かれたのか。思い出そうとしても、目の前の光景から目を離せなくて、どうしても頭が働かなかった。
そういう調子なので、自分が何者で、自分がどこにいるのかも、答えが出せなかった。
体を動かすのも億劫で、食べ物もろくに食べていないのに、不思議と腹は空かなかった。
それら数字ばかりの海をぼーっと見つめること、幾星霜。
---私の声が聞こえるか?
突然、数字以外のものが目に浮かんだ。
『声』ではなかった。無機質な文字だったので、語りかける相手が男性なのか女性なのか、どんな感情のこもったメッセージなのかもわからない。
なにかヒトならざる者の雰囲気を感じ取った俺は、その『声』の主に「あんた、死神か…?」と聞いてしまった。だって、こういう異常な場所に現れるのは、死神か何かだとしか思わないだろう?
相手は驚いたようで、しばらくの間なんの返事もなかったが、やがて
---さてね。君はどう思う?私にも自分が何なのか、よくわからないんだ。でも、『死神』も間違いではないかもね。
と答えた。
---君も随分な目にあったようだ。こんな呪文をかけられたのは、ここ数百年で君だけだろう。何があったか説明できるか?
わからない、としか答えられなかった。何しろ、自分が誰かもはっきりと思い出せなかったから、何が原因でこの『数字の海』へ放り込まれたかなんて、わかるはずがなかった。
---『数字の海』、ね。これはそんな綺麗な概念ではないよ。君の脳内を埋め尽くしてしまった、巨大なゴミの集積だ。
ゴミ?ゴミって、どういうことだ?
---本来、100年は運用に耐えるはずの記憶領域を、意味のない数字が塗りつぶしてしまっている。何も思い出せないのは、この『数字の海』のせいだ。処理しきれない大量の記憶を詰められたせいで、君の脳がパンクしてしまったんだよ。あるものにとっては『宝のカギ』だろうが、君にとっては全く無用の代物だ。
そうか、ゴミを詰められたのか。
俺は子供の頃、意地悪な同級生に騙されて、バッグの中に紙くずをパンパンに詰められたことを思い出した。少し重くなったカバンに気付かないまま家に帰って、親に驚かれたことがある。
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/6150701/)