---しょうもないイタズラをされたんだね。親御さんは息災かい?
どうだろう。家を飛び出したっきり、もう2年も会っていない。まあ、多分元気だろう。
---…よし、順調に思い出しているね。少しゴミを整理しただけで思い出せるなら、ちゃんとした設備で『数字の海』をある程度取り出せば、問題なく回復するだろう。
回復、できるのか。
---…?あまり嬉しそうではないな。
正直、途方に暮れている。今更家にも帰れない。ひどい失敗をしたから、前に働いていた場所にも戻れそうにない。この『数字の海』から浮上したところで、何をやればいいのかわからないんだ。
---そうか、ならいっそのこと、『復讐』をやってみないか?
復讐だって?誰にだ?
---君にその『数字の海』を埋め込んだ悪辣な賢者がいる。君は全てを忘れて、好きなように生きてもいいんだが…何をやればいいのかわからないなら、とりあえず、憎い相手を殴る準備でもすればいい。中身がなんにせよ、目標があるのはいいことだ。
復讐。復讐できる相手がいるのか。復讐しなきゃならないほど強大な相手に、俺なんかが立ち向かえるのか?英雄でもなんでもない俺が?
---チカラが足りないと思うなら、『知り合い』に頼んで稽古を付けてあげよう。どうする?
俺は、しばらく考えて、「やる」と答えた。
人間と戦うのは怖いが、それ以上に、こんな訳の分からない状況に陥れた相手に、無性に腹が立ってきたからだ。
---決まりだね。じゃあ、悪いが一度、意識を切る。君をここから連れ出さなくてはならない。しばらくまた『数字の海』に沈まないといけないが、そこは我慢してくれ。
俺はわかった、と答えた。再び数字だけの視界に取り残されるのは怖かったが、どうしようもなかった。
声の主が離れる気配がする。
俺は最後に、なぜ俺を助けてくれるのか、声の主に尋ねた。
---なぜだろうね?これは私の職務じゃない。『死神』はあまり、人前に姿を見せてはいけないんだ。何か理由があるなら…
海に飛び込むはずなのに、意識が浮上する感覚がある。これは声の主に引っ張られているのか?
そして、意識を『取り戻した』俺は、その景色を見た。
赤い土と岩に囲まれた部屋、鉄格子、天井から下がるランプの光。狭い牢屋だった。
俺の頭は、誰かの膝の上に横たえられている。膝を俺に貸している相手の顔は、逆光で隠されていた。
見間違えでなければ、その両目からは涙が---
---強いて言えば、『君』を助けられるから、かな?
そして再び、俺は海へ落ちた。
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