「っぶはあっ!!」
「あ、起きた」
水を吐いて起き上がると、そこは川岸だった。
空には星が瞬いている。ずぶ濡れの身体に夜風がかかり、心胆から凍える気持ちになった。
すぐ横には怪盗もどきが座っており、こちらの様子を伺っていた。
なんか、夢を見ていたような気がする…内容を思い出そうとしたが、どうもモヤを掴むような感じで上手くいかない。まあ、夢なんてそんなものかと諦めた。
今はどういう状況だったか。まだ若干朦朧とする頭を振り、思い出せることを整理した。
…埋蔵金…強盗団の連中との戦い…遺跡を爆破…よし、覚えてる。
直前に飲んだフバーハ薬のおかげで、身体へのダメージも軽減されていた。こりゃあ効果てきめんだ。もう替えもないけど、いい掘り出し物を買えたもんだ。
辺りをよくよく見回すと、見覚えのある石の台座があった。どうやら、件の洞窟の入り口まで戻ってきたようだ。
まだ星が出ているということは、気絶していた時間はそれほど長くないとみえた。
怪盗もどきの姿を見ると、散々自慢していたスーツがずぶ濡れになっていた。状況からして、奴が溺れた俺を引き揚げてくれたのだろう。
「あー…悪い、助けてもらったみたいだな…ありがとう、助かった…」
「お礼は別にいいんだけど、さっ」
ふっ、と目の前から消失する怪盗もどき。気がつくと俺は、頭を怪盗もどきの脇に挟まれ、そのまま締め上げられた。
「いだだだだだだ!頭が割れる割れる!」
「なんで!自爆すんの!僕は女の子の次に、服にお金かけてんの!この服も給料2か月分注ぎ込んで買ったやつなの!それを君は危うく爆散させそうにしたのー!あとこれ乾かすとシワになるから嫌なの!」
ギリリリリリッという音が挟まれた頭から聞こえた。なんだこいつ、圧力が万力並みじゃないか!?
「ギブギブギブ!悪かった、俺が悪かった!次、次あったら気をつけるからー!」
不意にぺいっと解放される我が頭。ほんと首にかけられなくてよかった、絶対窒息してたよあれ!
「…ふんだ。もういいよ。実際焦げたりはしなかったし、あの場面だと他に冴えた脱出策も思いつかなかったんでしょ。けど!次やったら弁償してもらうからね!」
怪盗もどきは、ビッと指を指して凄んだ。
「へへー、申し訳なかったです」
平謝りする俺。実際に命の恩人なんだから当然である。
…あれ?冷静に考えると、あの距離の爆発でなんで無傷なんだこいつ。呪文かなんかでガードしたんだろうか。どこまでも底の見えないやつ…
気になるところだが、深くは聞かない。この業界、商売仲間の手の内は詮索しないのがマナーだ。
俺は持ち物を確認した。火薬類はもちろん、全部ダメになっていた。もったいないことをした。自宅に置いてる分で、次の裏クエストまで持つだろうか。
そして頭の方は…という段で、俺は今さらながら、バンダナとグラサンをなくしていることに気づいた。やべえ、アレないとすごい寂しい。素の顔が平凡だから、いい感じにふざけた感が出るあの装備が好きだったのに。
「ほいっ」
と、急に怪盗もどきから何かを投げ渡された。見ると、それは我が愛しのバンダナとグラサンじゃないか!
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