「そしてこの俺様。トッテオキの魔道具によりまして、肝心の宝箱とその盗っ人はスケスケとなり、無事強盗団から逃げおおせたと。魔力追跡の技術がない限り、もう奴らが宝箱を取り戻すことは叶わない訳だ。そして連中の動きと狼狽を見る限り、魔力追跡の可能性はなくなった!」
化け狸は、んばっと両手を広げ、大袈裟に号令をかけた。
「これにて、全ての障害は取り除かれた!あとはこの箱を、裏クエスト屋まで運ぶのみ!という訳だよ諸君」
そう、やっとだ。やっとここまで来た。
そもそもの『コールタール家の衛兵の妨害』というクエストから脱線すること数時間。色々あったが、ようやく『埋蔵金』を確保できたわけだ。
長い夜がようやく終わるときが来た。あとは、箱の中身を確認するだけ…
…うん。なんかおかしなことを口走ったな、化け狸君。
「おう、ちょっと待て。なんでこの流れで、箱の開封よりも先に、裏クエスト屋に運ぶって話になるんだよ?」
化け狸の眉がピクリとした。
「そりゃお前、裏クエスト屋まで運んでから確認した方が安全だろうよ。強盗団の連中もどこをうろついてるかわからんわけで…」
「それはアンタがたった今否定しただろ、『連中にはもう、この箱を追跡する能力がない』ってな。大体、宝箱の中身なんてすぐ確認できるだろ、何を勿体ぶる必要が…」
俺は目の前の宝箱に手を伸ばした。化け狸がひょいと取り上げた。「マズッたなこりゃ」という表情に見える。
「まー待て、な?こういうものには順序ってのがあってな。お前、好きなおかずは先に食べるタイプ?俺は食前に砂糖入りヨーグルトを食べるタイプだ」
「好きなおかずを後で食べるという例になってない!?アンタ動揺してないか!?」
…怪しい。怪しいぞ、この哺乳類。そもそも、この宝箱を現時点でもっとも長く保有しているのは、他ならぬ化け狸だ。なら、宝箱の中身などとっくの前に確認しているはずである。
嫌な予想が頭を過ぎる。
コイツまさか、中身を確認した上で、俺たちに中身を見せることを拒んでいる…?ということはつまり、この宝箱の中身は。
「…磯野郎」
「ほい」
ガシッと、化け狸の小さい脇をホールドする怪盗もどき。奴にとっても、宝箱の中身は報酬内容に響く重要事項である。黙って誤魔化されるわけにはいくまい。化け狸が抱えた宝箱が、その足元に転がる。間髪入れず、俺が宝箱を確保した。
「あっこら待て、脇を触るんじゃない脇を!ワキガが移るぞ、えらいことになるぞ!」
「ワキガ!?ぎゃー不潔!!早く除菌しないと!」
と叫んだ怪盗もどきが、化け狸を叩き落とした。「ぼぶっ!」と息を漏らす化け狸。何やってんのこの磯野郎は!
化け狸が奪いに来るより早く、俺は宝箱をガバッと開いた。
「………マジか」
思わずポツリと呟いてしまった。あまりに衝撃的な光景が目に飛び込んだ故である。
呆然とする俺を前にした化け狸の行動は早かった。
「やむを得んっ」と一言呟くと、どこから取り出したのか、スーパーボールのような物体を俺の眉間に叩きつけた。鈍痛が頭の中に響く。
そして化け狸はその短い足を以て驚異的なジャンプ力を発揮、怯む俺から華麗に宝箱を奪い取った。
さらには着地する前に、これまたどこにしまっていたのか、ルーラストーンを取り出して、ピューンという独特の音を響かせ姿をくらました。
後から考えると、実に感心させられる手際。しかし、当時の俺たちに感心する余裕はなかった。
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