ガタラ原野を走り抜け、岳都ガタラの裏クエスト屋に戻ってきたのは、深夜も4時に差し掛かる頃である。
「ゼェッはあっ…あっ、いた!いやがったな狸野郎!」
全力疾走したせいで息も絶え絶え、どうにか入り口のはしごを降り、レンガ道を進んだ先に、果たして化け狸はいた。今いる通路と、いわゆる「店内」を仕切るドアの前に佇んでいる。
「おーおー、来たなどん臭共。随分息が上がってらっしゃる。石がないからダッシュで来た訳だな。ご苦労さん」
散々見飽きた軽薄な笑いを浮かべる化け狸に、俺は詰め寄った。後ろから怪盗もどきも付いてくる。
「今、お前の、軽口に、付き合う、気は、ねえ…ハーッ…てめえこの野郎、あんな埋蔵金…つーかゴミ掴まされて…タダで済むと思うなよ…」
「ちょっと君、息も絶え絶えじゃん…一旦休んでから話せばいいんじゃない?」
「磯野郎お前、なんでケロッとしてんの…」
心配げな怪盗もどきだが、俺同様に全力疾走してきたにも関わらず、息が上がった様子はない。コイツ、実は怪盗じゃなくてプロのアスリートなんじゃないか。
俺たちのそんな様子を見つつ、化け狸はバツの悪そうな顔をして、ぽりぽりと頭をかいた。
「あー…いや、悪かったよ。確かに騙す形にはなったがさ。お前らが手伝ってくれたおかげで、ようやく絵図が実現したんだ。感謝はしてんだぜ」
「ふざけんなよ、あんなゴミの山じゃ、どう転んだって金になるわけ…」
「ご一同、お静かに。商談中でございます」
俺と化け狸の会話に割って入る声があった。
声の主は、そこそこ歳のいったエルフの男だった。背中で手を組み、店内へのドアを守っている。俺が気が付かなかっただけで、初めからこの通路にいたようだった。
「…えーと、どちら様で?」
「お初にお目にかかります。弊店『裏クエスト屋』店主の小間使いを務めております、ミカヅチと申します。裏クエスト『雇われ衛兵の陽動』の受注者様ですね?店主より概要は伺っております」
「こ、これはどうもご丁寧に」
どうやら、例の裏クエスト屋店主の部下であるらしい。店主以外の従業員なんて初めて見たが、店の規模を考えれば、まあ居て当然のヒトだろう。
…んー…この声、どっかで聞いたような気がするが…どこで聞いたんだっけ。まあいいか、どうでも。
「ただいま、店主は商談にあたっております。そちらが終了するまで、どうかお静かに」
「その必要はない。たった今終わったところだ」
ドアがガラリと開き、中からオーガの男-裏クエスト屋店主が出てきた。
「やあ、3人とも揃っているね」
「あ、おっさん…こんな時間に会議かよ…」
「危急を要する話なら、まあこんな時間にもなるさ。それより化け狸くん」
店主は化け狸に向き直った。
「朗報だ。例の話、上手くいったよ」
「オッ、そいつはよかった。汗水流した甲斐あったぜ。『報酬額』はちゃんと取れたのか?」
「もちろん。後払い契約の250万ゴールド、きっちり払ってもらったよ。10万は手数料としてもらうとして、240万は君たちで好きに分配するといい」
信じがたいことをサラッと口にする店主。
化け狸は俺たちの方に顔を向け、ニッと笑った。
裏クエスト『雇われ衛兵の陽動』が完了した瞬間である。
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