とある金曜の昼頃、俺はガタラの宿屋にて、ひどい頭痛と共に目を覚ました。
この頭痛は覚えがある…いわゆる二日酔いというやつだ。俺もご多分の例に漏れず、割としょっちゅう酒の配分を間違えて、翌朝ひどい目に合っているのだった。
普段であれば、飲んだくれた酒場の外に放り出されて、寒い風に吹かれて目を覚ますのだが、今回はどうも様子が違う。宿屋のふかふかしたベッドの上にいた。
「ジャック」
と、俺の名前を呼ぶ声があった。
ズキズキする頭を抱えて起き上がると、ベッドの横の椅子にドワーフの少年が座っていた。
何が気に入らないのか、利発そうな顔をゆがめて、こちらをにらんでいる。
「酔って公道で寝転ぶとか、久しぶりに会って早々何やってんの」
「…あー、うん。別に深い意味はない。深酒しただけ」
「何があって深酒したのって聞いてんの」
「…」
なんだろう。昨日は確か、夜勤みたいな仕事を終えて、仕事仲間のプクリポとウェディを連れて昼飯を食いに行って…だめだ。そのあとのことが思い出せない。酒を飲む状況に至った経緯も、そもそも酒を飲んだ場面も思い出せない。靄を掴むというか、泥水に手を突っ込んでかき混ぜてるような感覚だ。まるで手応えがない。
ふすーっと、ドワーフが呆れたような鼻息をふかした。
「というか、お前マヨか?久しぶりだなー。図体もだいぶでかくなったな。つっても、超ドワーフ級ってほどじゃねえけど」
「超ドワーフ級ってなんだよ…ジャックは随分チャラくなったね。町中で会っても他人のフリをしたいくらい」
「ひっでえ。俺がどういう格好しても俺の勝手だろ」
「…別に構わないけど、年がら年中おなかを露出して生活すんのはどうかと思うよ」
頭を振りながら、ドワーフの少年は答えた。
マヨ・ルマークというこのドワーフの少年は、俺ことジャック・ルマークの弟である。
無論、義理だ。血縁としては、俺の父親の甥とか、そんな位置づけらしい。父親の実家で起こったトラブルにより、やむを得ず引き取ったのだと、昔父親に聞いたことがある。
年齢は俺の2つ下。俺に似ず頭脳明晰で、俺が家出した4年前当時は、ガタラの小学生において学年1位の成績を収めた天才児である…といっても、幼年学級の「天才」のほどなど、たかが知れてるとは思うが。
今現在の成績がどうなのかは知らない。なにしろ、4年ぶりの再会だし。
「マヨお前、まだ学校通ってるよな?中学何年生だっけ?」
「なんで中学生前提なんだよ。もう高校行ってる。今はドルワーム王国で寮取ってて、たまたま帰省中」
「嘘。こないだまで小学生だったじゃん、飛び級?」
「自分の2つ下の学年が何年生か考えろよ!大体、飛び級できるほど成績よくない」
「まじか。ガタラの天才児も凋落の憂き目にあっちゃうのか」
「そんな風に呼ばれた覚えはない。王国は広いんだよ兄貴。岳都で天才児と呼ばれる規格の学生がゴロゴロいるんだよ」
ははあ、なるほど広い。あの素直なマヨがやさぐれちゃうくらいには、王国の学生事情は混沌としていると見える。一丁前に気難しいような顔を浮かべるようになり、弟の成長ぶりが伺えた。
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