「…相談できる奴って誰だよ。言っとくが、俺の周りにそんな人徳者はいねえぞ」
心が動いたような様を見透かされるのも嫌だから、俺は精一杯軽口を返した。
「家族のところに帰りなさいよ。アンタの父親、そこそこに金持ちなんでしょ。息子の不祥事くらいもみ消せるわよ」
フンっと鼻を鳴らして、ポポムが俺を手放して席に戻りながら言った。
「そこまでわかってるなら、俺がこの町にいて一度も実家に帰ってない理由もわかるだろ。どの面下げて帰れっていうんだ」
それ以前に、ヒトの親父のことをなんだと思ってるんだ。ここ四年会ってないけど、息子の悪行を許すヒトではないだろう…多分。母さんの方はなおさらだ。
「じゃあ、不本意だけど、私が聞くしかないわね。馬鹿らしい話が出てきそうだけど、この際我慢して聞くわよ」
「…お前に?まじで?」
馬鹿じゃないのアンタ、と罵倒される未来しか見えない。俺の半生を赤点まみれにされそうだ。俺とは頭の出来も、人生の経験値も違うんだから当たり前か。
「文句言うならいいわよ。本気で人生棒に振って構わないなら、さっさと酒場を出ていきなさい。ただ、私は諸大陸の法律にも目を通しているから、借金がどうこうって辺りは助言できるわ。アンタの借金に違法性が認められれば減額か、もしかすれば帳消しもできるかもしれない」
「本当か!?」
今度は俺が身を乗り出した。赤っ恥にまみれた人生だが、借金さえなくなれば光明が見えてくるかもしれない。願ってもないことだ。
「言っとくけど、裏クエストでしでかしたことを世間は許してくれないわよ。借金がなくなったところで、前科者ができる仕事を探していたら、やっぱりまともなシノギには携われないって可能性が高いわ。歯を食いしばってでもまともな仕事を探すって覚悟は決めなさいよ」
「--もちろんだ」
「じゃ、まずは借金を抱えた経緯と、金を貸してきた奴のことを説明しなさい。あれば契約書も持ってきて」
素直に俺はうなずいた。
俺とポポムは酒場の卓を囲んで、長い話を始める--前に、ポポムから一つ質問された。
「そういえば、妖怪にまで頼って、一体何が知りたかったの?」
「…なんの話でしょうか」
「最初に説明したでしょ。『マシラの舌』はそのヒトが一番知りたいことを教える代わりに脳髄へ憑りつくって。アンタ魔力がへなちょこすぎて、露骨に体調崩してたけど、『マシラの舌』に憑りつかれたってことは、なんか切実に知りたいことが一応あったはずよ。覚えはない?」
俺は漁網を手繰り寄せるようにして、頭の中を探し回った…
結果、確かにあの青い血管に向けて、何かに魅せられたような心地のまま、心の中に仕舞ったものを吐き出した記憶があった。
…正直、思い出さなければよかった。この流れで説明するのも恥ずかしい内容だった。
「…………家族と仲直りする方法」
「ばかっ」
ポポムは吐き捨てるように言った。早々に予想が的中してしまった。
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