「…あの、ポポムさん?なんかあるんスか」
「なーんか引っかかるわね…こういう詐欺まがいの取引は、あとで契約内容を捏造できるように白紙、またはわざと言葉少なにするのが常套手段だから、闇金の証明書と見たら『らしい』っちゃ『らしい』けど…うーん」
彼女はボソッと豆知識を解説した。つくづくろくでもない業界だな、という感想が出る。
その後しばらく、ポポムはうんうんうなり続けたが、やがて顔を上げた。
「わかった、金額がおかしいんだ」
「金額?」
今度は俺が首を傾げた。証書の貸付金額ははっきり三億ゴールドと書かれている。今現在抱えている借金の総額と全く同額だ。なにもおかしいところはない。
「アンタ、さっき『三億』ゴールドの借金を抱えてると言ったわね?ここ二年での返済分を含めない金額がそれだと」
「おう」
ちなみに、今までに返済した合計金額は一千万ゴールドくらいだ。借金総額と比べて大分小さいから、純粋な金勘定ならともかく、こういう日常会話では省いている。
「この契約を結んだのは『二年前』とも言ったわね?」
「うん」
「じゃ、なんでビタいち金額が増えてないのよ」
「はい?」
つい間抜けな返答をした。なんで金額が増えるなんて話になるんだ?
俺の間抜けな顔を見て、ポポムが深いため息をつく。「これが今どきの若者かあ…」とでも言いたそうな呆れ顔を浮かべた。
「あのね、借金には普通『利息』ってものが付くのよ。金貸しから一万ゴールド借りたからっつって、『あとで一万ゴールドだけ返せばいいや』とはならないの。借りた金額の何パーセントかを『利息』として――要は色を付けて返さなきゃいけないの。それが借金ってもんよ」
「えっ」
「で、いわゆる『闇金』というのは、この利息、『金利』とも言うけど、その割合を法律で決められてるよりはるかに高く設定してる金貸しのことを言うのよ。国の決め事を無視して金をむしり取るから違法なの。ここまでOK?」
「あっハイ」
「で、そんな闇金から三億ゴールドも借りたら、その時点で人生終了するくらいの大痛手なのよ。わかる?
闇金で有名な文句が『トイチ』、十日で一割の利息を付けるってやつ。この金利で三億ゴールド借りたとするじゃない?借りた金額かける1.1の日数割る十乗が返済金額だから、二年経った場合の総額は三億かける1.1の七十二乗で、九十七億二千六百四十四万七千八百五十九ゴールド。大体百億ゴールド返済しないといけない」
「ひゃっ、百億!!!???」
「あとこれ、借金の残額に対して加算されるから、さっさと返さないと更に増えるわよ」
「百億から更に!!!???」
「こうなるともう、小規模な商会ですら破産しかねない額だし、個人は言うに及ばずという話よ。こういうのがあるから、借金持ちは大抵借金持ちで一生を終えるのよ。アクロニア鉱山送りって言葉知ってる?」
「…えーっと…借金まみれの末に過労死する的な?」
「そう思えるうちは幸せよ」
「これ以上にひどい意味であると!?」
「まあそういうわけよ。翻ってアンタの場合、なぜ生きているっていう話なの。闇金で三億ゴールドなんて…貸す側からしたら体のいい奴隷が増えたも同然よ。シャークマジュ狩りも麻薬製造も思いのまま、働けないカラダになったら適当に臓器を売ってケラコーナに撒いて捨てるって扱いがまかり通るわけ。わかった?」
「…よっくわかりましたぁ…」
頭が痛くなるような闇の深い話を、もはや半笑いしながらポポムは語った。俺の無理解というか無知さをまざまざと見せつけられて、解説するのも馬鹿らしいという心境らしかった。当事者の俺は言うに及ばず、もうずっと額に手を当てている。
しかもこれ、確認事項としてはまだまだ序の口のはずだ。色々な確認事項を掘り返す過程で、俺の至らなさ無知蒙昧さetcをつぶさに確認するとなると、俺はもちろんポポムも明日一日寝込むかもしれない。
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7087050/)