「え、なんで!?」
「『爆発させる気があるなら、とっくの前にやってるはず』だからよ。週単位あるいは日単位で規定額返済すべしという『課題』を課しているくせ、それに失敗しても『首輪』を発動させてないというのが変なのよ。普通に考えれば、まさにそういう場面のペナルティとして『首輪』を使うべきなはずでしょ。なのに『首輪』を使ってないということは、なにか『使わない理由』があるのよ。『首輪を使わなくても言うことを聞かせられる』という自信なのか…あるいはそもそも『爆発する首輪』なんてものは仕掛けてないのか」
「く、『首輪』が偽物ってことか!?けど、さっきアンタ、この魔法陣を<遠隔爆破呪文>だって言ってなかったか?」
「『首輪』って単語を聞いて、アンタの認識が確認できたってだけよ。その魔法陣は<暗号化>してあって、第三者が見ても何の呪文なのかわからないのよ。今現在、アンタの耳に何が仕込まれてるかわからないけど、殺傷力の高い呪文は仕込んでない…と思う。多分」
「自信なさげに言われても困る!あいつ呪文の達人なんだぞ!他にもっとヤバい呪文仕込んでたりしたら…」
「でもねえ、市井のチンピラに禁呪だとか大層な呪文を仕込むというのがどうしても信じられないのよねえ…
参考までに聞きたいんだけど、『首輪』以外だと、メルトアはどんな呪文を使うの?」
「えーっと…メラガイアーでネクロバルサを焼き払ってたし、ヒャダムで足を凍らせられたこともあるし…ドルマ、イオ、バギ、クモノ、マヌーサ、バイキルト、スカラあたりも使ってたかも」
「…随分手広いわね。魔法使いだけじゃなくて、盗賊や賢者とかの転職試験課題をかじってる奴なのかしら。他には?」
「他…なんかあったかな…あ、そうだ」
俺は先ほどテーブルに置いた私物の中から、ガラスのコップを手に取った。コップの底にはコイン大の穴が空いており、既に役に立たなくなった代物である。
「何それ?」
「この酒場のコップなんだけど…一昨日くらいにメルトアに穴空けられて押し付けられてさ。弁償すんのが嫌で、スった」
言った瞬間にポポムに殴られた。
「馬っ鹿!スったその店で見せるんじゃないわよ!店員に見つかったら面倒なことになるじゃない!」
「痛え…もう隠すのも面倒だからさ…」
「表では絶対出すんじゃないわよ…で、そのコップが何?」
「コップがどうって話じゃなくて、その穴が空いた状況がよくわからんのさ…呪文でなんかやったんじゃないかなって」
俺はそのコップを手に入れた(というか盗んだ)経緯を説明した。
一昨日の昼頃、俺と『借金取り』改めメルトアは、この酒場で昼食を取っていた。和やか…とは程遠い、具体的には俺がメルトアに軽い殺意を覚えるような会話の傍ら、『それ』は起こった。
どの辺まで『それ』に関係する事柄なのかはわからないのだが、状況をかいつまんで説明すると以下のようになる。
・俺とメルトアは、隣り合った席に座っていた
・テーブルには小さな氷の入ったコップが置いてあった
・俺は会話の展開で激怒し、メルトアに掴みかかった
→同じタイミングで、パンッという乾いた音がテーブルから響いた
・色々あって、結局メルトアを殴るところまではいかず、そのまま解散した
・気が付いたら、穴の空いたコップとテーブルがその場に残っていた
…という経緯だ。
説明が終わったとき、俺とポポムは両方とも目頭を押さえていた。
「…テーブルまでぶっ壊してんのかよ…」
ポポムは呆然としながらつぶやいた。我ながら、ホコリの出方が尋常じゃない。
「俺も忘れてた…多分、テーブルはもう交換されてるけど、今店員に捕まってないの、ただの運だと思う…」
一昨日と店員の面子が違うのかな?昼間と夜間でシフトが違うとか。マジでありがたくない場面で強運が発揮される俺。
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7087062/)