太陽と見間違うばかりに巨大な火球がノータイムで発生し、俺に向かって迫りくる。
直前、背筋に火箸を差し込まれたような殺気を感じ、全力で横方向に走り抜けた俺は、辛うじて火球を回避した。回避した上で尚、わき腹を焦がす程の高温を感じた。
そのまま直進した火球は、背後の崖をえぐり飛ばして消滅する。生身で受けたら即死。どころか、バーハ薬を飲んでいても耐えきれなかっただろう。なんというでたらめな魔力なのか。
「――うぜえ」
呪術王に向き直った俺は、相手の男が尋常ではないほど苛立っているのを見て取った。
苛立ってるなんてものじゃない。俺の罵声ひとつでぶちぎれやがった。蒼白な顔を血管が浮かび上がるほど蒸気させていた。
「うぜえ、うぜえ、うぜえ。所詮電子の藻屑に消えるデク人形如きが、中途半端な正義ヅラさらすんじゃねえ。殺すぞ」
その一言に、俺の頭が沸騰した。切れているのは俺だって同じだ。
「だまらっしゃいっ!!てめえが何のつもりでヒトをコケにしてんのかは知らねーがなあ、こっちゃあ殺されかけた相手を見逃せるほど人間できちゃいねーんだよ!!そこに直りやがれ、雁首すっ飛ばしてピッキーのエサにしてやる…!!!」
もはや問答は不要だ。俺は呪術王に向かって走り出した。
顔面に一発、拳骨を叩き込む。そうしなきゃ気が済まん!
「…っ、そうか、じゃあ、死ね」
悪魔のような人相を浮かべる呪術王が右腕を突き出す。
範囲攻撃呪文ではない。もう数歩で格闘の領域という距離では、マヒャドなどを放つと自分が巻き込まれる。直線状の軌道を描く呪文といったら、当然――
「ギラグレイド<極大閃熱呪文>!!」
全力で右方向に跳ねた直後、地を這う業火の壁が脇を通過する。左足が焦げた気がするが、無視する。呪文の威力におののいている暇なんかない。すぐさま立ち上がって走り抜ける。
驚いた表情を見せる呪術王の顔は、目の前。
どれ程でたらめな火力だろうと、当たらなければ問題じゃない。勝てる!!
呪術王を組み伏せた後の百叩きの手順を頭に描きながら、渾身のパンチを叩きつけた、直後。
――激痛が右の拳骨に走る。
「ぐあっ…!!」
反射的にうめきながら、自分の右手を見た。
渾身のチカラを込めたにも関わらず、俺のパンチは呪術王まで届いていない。顔面から数センチ離れた位置で、不自然に止まっている。盾も何も挟んでいないのに、岩盤のような密度と硬度を持つ『何か』に触れている感覚があった。生身の拳で岩を殴れば、当然拳の方が壊れる。込めたチカラのすべてが自分の右手に返ってきたせいで、握った拳の表面が流血していた。
「――スクラクスト<過剰防壁呪文>。素人のパンチで、ダイヤモンドの鎧を砕けるわけがないだろ。お前にできる攻撃は、全部無意味だ」
鬼の形相を浮かべた呪術王が、今度は右の拳を握った。
容赦のない殺気を間近で感じた俺は、両手を眼前に出して防御する。
オレンジ色のオーラをまとった呪術王のパンチが着弾した瞬間、俺の身体が吹っ飛んだ。数メートルもの距離を飛行する羽目になった俺は、背中から地面に叩きつけられた。
岩壁に拘束されたときと似たような衝撃で、俺は瞬間呼吸ができなくなった。やばい。今動きを止めたらやられる。
深呼吸、深呼吸して体勢を――
などと思考している最中、ズンッと、腹部に衝撃が走る。数メートル離れたはずの呪術王が一瞬で目の前に来て、俺を踏みつけたのだ。
「バイキルト<強化呪文>。ここでバイキルラッシュ<過剰強化呪文>なんか使ったら、お前は一瞬で死ぬだろう?それじゃ俺の気が晴れない。お望み通り、なぶってやるよ」
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7171678/)