俺を地面に組み伏せ、腹の上に座った呪術王は、俺の顔面に右手を振り下ろす。岩のような質量で叩かれた俺は、ダラダラと鼻血を流した。サングラスにもひびが入る。
馬乗りになった呪術王は、ひたすらに俺を殴り続けた。一発振り下ろされるたびに、口の中が切れ、頭に火花が散り、意識が飛びそうになる。必死に両腕を構えて防御するが、それ以上のことは何もできなかった。
顔を真っ赤に蒸気させた呪術王は、激情のままに罵詈雑言を繰り出す。
「デク人形が!プログラムで組まれた生活を繰り返すだけの幻が!何一つ自分で生み出すこともないクズが!『転生者』一人受け入れられない矮小な社会動物が!俺の、よりにもよってこの俺の!大事なものを奪った悪魔どもが!!!俺のやることすべてを邪魔する、邪魔するだけしか取柄のない劣等が!!!今度こそ、今度こそぶちころしてやる!!!なにもかも壊してやらあああああ!!!!」
俺には何一つわからない罵声が、俺を殴打する音とともに住宅村に響く。
俺のサングラスを割り、顔面が血だらけになってなお、呪術王の暴力は終わらない。
意識が朦朧としてきて、いよいよ死を予感した俺は、呪術王の顔を見上げる。興奮した呪術王の顔には、涙すら流れていた。
わからない。こいつのやってきたこと、やろうとしていること、思っていること。何一つとして理解できるものがない。
湧きあがったのは、子供のような喧嘩に負けた敗北感でもなく、それを嘆く言葉でも、ない。
こいつは、初めて会ったときから今に至るまで、『俺』のことを見ていない。
容赦なく拳を振り下ろしている現状ですら、俺を『愚かな劣等種のひとかけら』としか見ていない。徹頭徹尾、路傍の石ころとしか、思ってない…!!
こんな屈辱はない。害虫駆除だとか、ただ自分の激情を吐き出す道具としか、俺のことを扱わない。そんな相手に殺されかけている。ここまでふざけた話があるか。
―――俺を、見ろ。
「じゃかあしいっ!!理系ズラのもやし野郎が盛ってんじゃねえぞこのトーヘンボク!!俺もお天道様に顔向けできる身分じゃねーが、てめえよかマシな人間てこたあ自信もって断言できっぞ!!他の有象無象を資源みてーに消費する輩ぁあ簀巻きにして光の川に落としたらあ!!てめえの罪業で大やけどかましたら、くっついた皮膚ごと服剥きはがして崖下にたたっつけてやる!!てめえなんぞ地獄じゃ腫れ物触るノリで五種族神の間をたらい回しだぁーーーー!!!!」
俺の絶叫が一帯に響き渡る。
やべえ、何言ってんだ俺。自分で言ってて意味がわからない罵倒がスラスラ出てくる。殴られ過ぎて変なゾーンに入っているっぽい。
呪術王の顔を直視する。
男は一瞬だけ、きょとんとした表情をした。ただ妙な音を聞いたというかのように、その動きが静止した。
が、停滞はほんの一瞬のことだった。呪術王は無表情のままだったが、ぞっとするような冷たい目でこちらを見た後、右の手のひらを俺の顔面に置いた。
呪文を発動すべく、男は息を吸った。
死を目の前にしたせいか、時間が妙に遅く感じた。
これから死ぬというのに、やけにスッキリした気分だ。言いたいことは言えたし、憎い奴の変な顔も見れた。死に際の一撃としては悪くない。
「メラガ――」という、男の憎悪に満ちた言葉を聞きながら、来たる灼熱を覚悟した――
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