「え。なにこれ。まじで手羽先!?なんで手羽先!?呪術王まじでなに考えてんの!!?手羽先で脅されたの俺!!?」
「いや、これ多分『借金取り』の仕業でしょうね。これはモシャス<変体呪文>かしら…カワキは『借金取り』を拷問にかけて、その片耳をもぎ取ったつもりだったけど、実は精巧に本人の耳を模倣した手羽先を身代わりにしていた。トカゲの尻尾切りみたくね。魔力の気配がほとんどしないから、多分カワキは偽物だとも気づいてないでしょうね。もいだ片耳をそのまま持ち歩いてたってのは理解に苦しむけど…私たちへの嫌がらせに使うつもりだったのかしら」
「いや、だとしてもなんで手羽先なんだ…あ」
…あー、でも借金取りが手羽先を持ってる場面は確かにあったな…二日前の昼食時に、俺が頼んだ手羽先を、一個あいつに盗られてた。あの手羽先を使ったのか…
いやー、それにしても捨てずに持ってるか普通…?謎が深まる。
というか、手羽先はどうでもいいんだ。
「こういう小細工をする余裕があるってことは――多分、アイツは生きてる、ってことか?ポポム」
「その確率は高いわね。これほどの呪文の腕があれば、呪術王から逃れるくらい可能でしょうよ」
「…そうかい、安心した」
俺を治療した上に、この二年間色々なことを焚きつけながら俺の面倒を見て、更には『数字の海』を使って呪術王をおびき出した彼女。二年前の因縁をこのタイミングで思い出させ、遥か格上の怪物である呪術王と俺を激突させようとする向きすらある。その思惑は今もって計り知れない。
けど、ウェディの借金取りのことは一旦忘れよう。後で本人に問い詰めればいいことだ。
今はそれよりも優先すべきことがある。言うまでもなく、呪術王カワキのことだ。
「あの野郎は俺をただの実験材料として消費し、ただのゴミとして捨てた。その挙句、俺を付け狙って襲撃した今日ですら、あの野郎は俺のことを見ちゃいなかった。徹頭徹尾自分のことしか考えてねーんだ、アイツは。そんなクソ野郎に喧嘩吹っ掛けられて、黙って逃げてたら、俺ぁもう自分のことが認められなくなる」
「――その被害の記憶、『借金取り』に埋めつけられた偽の記憶だったらどうするの?とんだ無駄死にになるわよ」
「そんときゃ、『人類の夷敵を排除せしめんため』とか、適当な大義名分を考えるよ。今重要なのは、奴が俺をコケにしたこと、そこだけだ。それだけあれば、一発殴る理由に事足りる」
ポポムは黙って聞いている。
これは市井のチンピラが、熊の如き危険人物に喧嘩を仕掛けると言っているのと同義だ。ポポムの立場なら止めて然るべき暴挙だが、今回ばかりは譲れない。
「世界警察だか何だか知らねーが、俺は俺であの野郎をノしに行ってやる。止めんなよ」
ポポムはいつも通りのしかめっ面で腕汲みし、はぁーーーーっという長いため息をついた。
「…よくわかったわよ。怖じ気ついて逃げた方が私としては都合よかったけど、そこまで覚悟決まってるなら、敢えて止めないわよ」
「…すまん、この期に及んでまた迷惑かける」
「ただし、喧嘩すんなら私の指示に従いなさい。単騎で突っ込むのは許さないわよ」
「え。」
ベッドから起き上がった彼女は、眉間を指でもみながら、驚くべき命令を下した。
「明日正午、私たち世界警察は、さる傭兵団との共同作戦で、『呪術王』のアジトに強襲を仕掛けるわ。目的は『呪術王』カワキの逮捕、および『世界を滅ぼす魔法』の発動阻止。場所はレンドア島の前身となった古い港湾島、通称『オールドレンドア』。アンタはその作戦に参加してもらう。部下に頼む予定だった、カワキをおびき出す囮役に任命してやる。その役目を完璧にこなしたら、カワキとの戦闘を許してやってもいいわ」
(続き・https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7171708/)