「今から人員変更なんてできるわけないでしょう!!!」ホレイスという人間が開口一番で反発した。作戦会議に招集された部隊長の一人だ。
この作戦における突入部隊は、任務の性質上、魔物の集団に包囲される危険性が高い。魔物からの激しい攻撃や、呪術王が設置する致死性の高い罠からも生き残るためには、単純な戦闘力より、フットワークの軽さとスタミナを求められる。ダーマ制戦闘職で言えば、戦士や魔法使いではなく、盗賊やバトルマスターの方が適任である。更に、回復役として旅芸人か僧侶。いずれも高レベルの技量が必要となる。
これらの要件を満たす人員は、対策チームでもそう多くない。それ故、作戦が固まった段階で人員選出し、一日だけとはいえ念入りに連携調整が行われた。その調整が済んだ後に人員変更のお達しである。部下の立場では、そりゃイラつくだろう。
「何もパーティメンバーを交代しろって言ってるわけではないわよ、ホレイス。追加の助っ人が一人増えると考えてちょうだい。別に連携調整のことなんて考えることもないわよ」
「メンバーが増える分、回復役の負担が増えます!素性の知れた実力者ならまだしも、たった今見知った相手じゃあ、助っ人どころか足手まといになる確率の方が高い!」
「一応、彼も冒険者としてキャリアは積んでいるわよ。攻めには使えないかもしれないけど、自分の身を守るくらいの技術はあるわ。それに、彼――ジャックは、二年前の呪術王捕縛作戦で保護された、呪術王の実験被害者の一人よ。呪術王に一矢報いてやろうという気概がある。役割を与えてやれば、少なくとも足手まといにはならないわよ」
「被害者だったら、連れていくべきは世界警察本部か、レンドアのモンスター討伐隊本部でしょう!個人の感傷を優先して、作戦行動に支障をきたしては元も子もない!」
「感傷だけじゃないわ。ジャックには彼固有の利用価値がある…そもそも彼は、ガタラで呪術王に襲われていたところを、私が保護したのよ」
「っ!?」
ホレイスの顔が驚きで覆われた。ここまで無言を貫いてきた他の部隊長も同様である。
そのうちの一人、ウェディのルーニー部隊長が口を開いた。
「二年前の呪術王捕縛作戦で保護された実験被害者の何名かが、ここ数週間の間に、呪術王と思しき男から襲撃されたという報告がありましたな…その襲撃を、彼も受けたと?」
「そう。襲撃を受けた被害者は、いずれも二、三日の間昏睡状態に陥っている…あの襲撃の意図は不明だけど、呪術王は精神操作呪文の使い手。恐らく被害者の脳に入っている情報資産を狙って、呪文を行使した結果、被害者が昏睡状態になっている。私はそう睨んでいるわ。けど、襲撃を受けたジャックは昏睡状態になっていない…」
「つまり、呪術王はジャック氏が持つ『何か』を狙っていて、尚且つそれを奪えていないと?であれば、呪術王が再び彼を狙ってくる可能性があるわけですな?」
「そういうわけ。ジャックを矢面にしておけば、潜伏している呪術王が打って出てくる可能性が高まる…囮役として最適でしょう?」
ポポムは理路整然と、部隊長たちを諭す。
傍から聞いている俺は冷や汗が出そうになる。
ポポムは俺に、呪術王が付け狙う『何か』が今もまだある…という前提で話を続けているが、昨晩俺を襲撃した呪術王は、明らかに目的を達成した安堵があった。俺の頭の中に『何か』があったところで、それはとっくの前に持ち去られているだろう。昏睡していないのは、多分借金取りの仕込みのおかげだ。ポポムの推理は、俺の他に目撃者がいないことをいいことに、状況証拠をいいように解釈した屁理屈だ。
ポポム自身、それは百も承知だ。今彼女は、俺を作戦に参加させるために、詭弁を弄して無理筋を通そうとしているのだ。ありがたいと同時に、ポポムに申し訳なさが募る。
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