「…あ、あんたまさか、俺を使ってポポムを脅すつもりか!!?対策チームの奴らを脅そうってことか…!?」
「はあ?そんなことして何の意味がある?ポポムたちは存分に、呪術王とつぶし合ってくれてればいい。むしろ、こっちのことは気取られたくない。僕が脅したい相手は、他にいる」
「そ、そう…」
ポポムは交渉相手じゃない…?他に恐喝するような相手が、この島にいるだろうか。
対策チームの他の誰か…ってことはないだろう。対策チーム自体に店主の存在を気取られたくないのだから。
では、呪術王の方か?確かに、奴と俺には接点があるにはあるが、恫喝に使うほどの価値が今の俺に残っているだろうか。つい昨日、奴は俺を殺そうとしたんだから、価値が残ってると思う方が無理がある。
じゃあ、一体誰なのか。ポポムと呪術王並みのキーパーソンで、今この島にいて、俺とも関係が深い人物――
そこまで思考を巡らせて、はた、と。その可能性に気付く。
「――メルトア?」
ぽつりと呟いた俺に、店主は凶悪な笑みを浮かべた。
「正解。君はあの女に対する、人質だ」
「――え、いや。おかしいだろ。あんた、俺の借金主と面識があったのか?知り合いだったとして、市井のいち借金取りを、裏クエスト屋の店主がわざわざ脅迫するなんて真似…」
意外な言葉に面食らう俺の顔を見ながら、店主ははぁーーっ…と、長いため息をつく。
「…君ねえ、あの女がただの借金取りだと思うかい?」
「…思わない、けど」
そりゃあ、ポポムに『借金取り』の正体を教えてもらった今となっては、メルトアをいち借金取りと呼ぶ方が間違いなんだけど。
メルトアはあくまで、俺個人の因縁の相手でしかない、はずだ。なんでこのおっさんまで一枚嚙んでくるんだ?
「あの女は、ね。僕たちが直々に殺してやりたい奴なんだ」
「…は?」
「屈辱を受けた相手には倍返し――ってのが、裏社会人の基本だけど。奴についてはそれが簡単な話じゃない。僕の部下と資産全部つぎ込んでも、分のいい勝負にはならない。
だから、君だ。このとんでもない戦場の中心で戦っているあの女に、君を使って脅迫できれば、今度こそ奴を追い詰めることができる」
店主は、いつものにやにやした顔を浮かべながら、金勘定をするように悪巧みを語った。
俺を見るその目は、値打ちの宝物を見るような――要するにヒト扱いではなく、使い勝手のいい道具を見るような、暗い情念が宿っていた。
その無遠慮な目線に、今までにない不快感を覚えた。
「―――意味がわからんっ!なんでそこまでするってんだ!!メルトアはそこまでするほどの相手なのか!?」
俺は、常々胸の内にあった疑問を店主にぶつけた。
「あの女は何者なんだっっっ!?」
「正体は、僕も知らない。あの女の正体を知ってるやつは、この世にそう多くない。ただ、一個だけ確実なことがある…」
店主は島の中心部――レンガが吹き荒れる広場を睨みながら、吐き捨てた。
「――あの女は、最強の魔法使いだ」
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