これだけでもかなり腹立たしい話なのに、ここに来て新たな事実が判明したわけだ。
ゴズ渓谷から『いやしの雪中花』をかすめ取っていった白い忍者。それは、俺を取り押さえているエルフの男、おぼろ忍群の頭領・主零と同一人物である。
つまり、真相はこうだ。このオーガの男は、俺に裏クエストを依頼して『いやしの雪中花』を取りに行かせながら、裏では自分の部下――主零にも花の採取を命じていた。見事花の採取に成功した主零から、『いやしの雪中花』を受け取った店主は、依頼人のベルウッドから三億ゴールドを受け取った。一方、花の採取に失敗した俺にはその事実を伏せながら、ほんの百五十万ゴールドの支払いでお払い箱にした。
この男、「残念だったネ」という顔をして、クエスト失敗の補填なんて謳っておきながら――その実、俺のクエストが必ず失敗するよう、裏で工作していた。
目的は想像がつく。三億ゴールドの実入りがより大きくなるよう、クエストの実行者である俺の取り分を極力小さくしたのだ。ベルウッドからの全体報酬をクエスト依頼書から削除し、俺が取り分を増やすように主張させなかった。クエスト自体も失敗するように部下を動かし、自作自演で俺への支払いを小さくした。その方が、自分が儲かるから。
何も知らない俺は、俺の借金を一気に返済できるほどの金が動いた機会を、みすみす見逃していたのだ――
オーガの男の顔が、面白がるように、わずかに口角が上がったのを見逃さなかった。
俺の顔が羞恥と怒りに染まるのを悟ったんだろう。
俺は、自分の間抜けさ具合にほとほと嫌気がさした。
これが、裏クエスト屋か。親切そうな顔で相談に乗っておいて、実は借金返済を助ける気など、さらさらなかったんだ。こんな守銭奴を、曲がりなりにも信頼していた自分が腹立たしい。俺は、二年もの時間をとてつもない徒労に変えてしまった――こんな奴に、自分の命運を託したのが間違いだった。
――散々な間違いを犯したけど、だったら。今から少しでも、挽回しなければ。
俺はのぼせた頭脳を、少しずつ冷やしてから、また話し始めた。
「性格が悪いぜ、おっさん。いくら俺が心配だからって、部下を密かについてこさせるなんてよ――ガキの使いじゃあるまいし、そんなに俺が信用できなかったのか?」
「そりゃあねえ。君がどうしてもって言うから行かせたけど、レベル六十のボンボンがゴズ渓谷を踏破できるかっつったら…ねえ?ちょっと後ろから部下に様子を見させるくらいの親切心があっていいと思ったのさ」
いけしゃあしゃあと軽口を述べるオーガに、再びこめかみの血管が浮かびかけた。が、抑える。
冷静さを欠いて口論を始めたところで、本職の商人に敵うはずがない。渾身のチカラを以てアンガーマネジメントに努める。
「いやいやいや――心配なんか無用だったろ。俺は自分の足で、ゴズ渓谷の最深部までたどり着いた。この白い忍者がいなかったとしても、別に問題なく花を取ってこれたさ。代わりに雑草や土を取ってきてやったわけだし、邪魔がなければちゃんとクエスト達成したぞ」
「ハッ!たらればの話をするのは見苦しいぜ、ジャック君。僕らの業界は競争主義、勝ったものが報酬を多く得るのが原則だ。地力がどうだろうと、事実として花を取って帰ったのは主零だ。この結果に対し、クエストに失敗した君が口出しする権利はない」
「そんな話、あのクエストの依頼書には載ってなかったろうが!!あれはクエスト受注者が妨害を受けた場合を考慮してない契約内容だ。花を取得したのがアンタの部下でも、俺は裏クエスト屋から依頼を受けた冒険者。俺は裏クエスト屋の部下と同じ扱いになるはずだ。他の部下の独断専行の煽りを、俺が受けるのは納得できない」
俺は務めて冷静に、今の状況とクエスト契約の穴を突きつける。
商人を相手に戦うなら、戦う舞台は契約である。商業法律なんか知らんけど、とにかく不当と感じる部分を攻める。
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