「もう一つ!今回のクエスト、ベルウッドの提示した全体報酬額は、三億ゴールドだったそうだな?」
俺はポポムから教わった情報を口にする。店主はむ…と、怪訝そうな顔を浮かべた。
「俺が見たクエスト依頼書には、三億ゴールドって文言は見当たらなかった。依頼書上の報酬額は、前金・成功報酬合わせて二百万ゴールド。残り二億九千八百万ゴールドを全て裏クエスト屋が得たってことになるが、この報酬額の差は到底納得できない」
「それは、クエスト屋としての経費だよ。ワグナー機関の話は前にしたろ?マフィアもどきのあの連中を見張りつつ情報を集め、クエストの決行時期を絞るのに手間取って、費用が高くついたんだ。あと、君から受け取ったゴズ渓谷の素材(氷や雑草)をバザーへ匿名出品したのも必要経費のうちに入る。その他も合わせた諸経費で、三億とトントンってとこだ」
その作業にそこまで金かかるんか、ほんまかいな…と思ったが、無視する。
「だったら、このクエストにかかった諸経費の内訳を見せろ。内訳がわかんなきゃ納得しねえ、出納帳出しやがれ!」
俺の剣幕をものともせず、店主は肩をすくめる。
「…持ってきてると思う?この戦場に」
「あ」
持ってきてるわけねえ。戦場に重要書類を持ってくる阿呆が商人やってけるわけねえわ。意外な落とし穴にはまってしまった。
二の矢がつげぬ俺を見て、店主が口を開く。
「あの日は色々あったからね。ちょっと僕も細かい内訳が出せる状況じゃない。この話は一旦持ち帰って、出納帳を突き合わせながら話そうか?」
いかにも申し訳なさそうな…その実ほくそ笑んでいそうな読みにくい顔付きで、店主が提案する。
この野郎、と俺は苦虫を噛む。このおっさんに限って、自分が取り扱ったクエストの経費概要を覚えてないはずがない。しかし、現物がなければいくらでも誤魔化されてしまう。
それどころか、話が後日になってしまえば、このおっさんに書類を書き換える時間を与えてしまう。あちらに都合の悪い部分を隠されてしまえば、ただでも薄い勝機を逃す。この店主を糾弾する機会は、今この場を置いて他にないのだ。
うぬぬぬぬぬ、と俺が必死で次の手を考え込んだその時、天から声が響いた。
「出納帳はないが、契約書ならあるぜ?」
その声は、店主の後ろにそびえるコテージから響いた。
耳心地がよいハスキーな声質を持ったそいつは、ドアの向こうからトテトテと可愛らしい足音を立てて前に出た。
ぴょんと欄干の上に飛び乗ったそいつは、真っ黒い毛並みの、素っ裸なプクリポだった。
「――なんか面白そうな話してるじゃないの、グラサン君」
果たして、そこには俺の知り合い――通称『化け狸』がいた。
「た、た、狸!?お前、なんでこの島にいるんだ…!?」
驚愕とともに俺は化け狸を見つめる。
化け狸。つい二日前、裏クエストを遂行する中で知り合ったプクリポ。ヒトを喰ったような言動で周囲を惑わす泥棒。その脈絡のない登場に警戒心がつのる。
「あ~、まあ、詳しいことはあとで。今はとりあえず、この場を治める役回りって理解でよろしく」
よくわからないことをもごもごと話す化け狸。妙に話術のキレが悪い。口八丁を得意技とする彼らしくないが…ひとまず、様子を見ることにする。
一方、店主はぎろりと、コテージの欄干に立つ化け狸を睨む。
「ポッタル君――口出しをする気なら、あまり面白くない冗談だ。保護してあげた身の上で余計なことを考えちゃいけない」
「悪いね、おやっさん。俺様、たまにはヒト様のために働かないといけない立ち位置なんだ。今日だけはグラサン君の味方で通させてもらう」
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