ずざぁっ!!と、怪盗もどきの周囲で砂煙が上がる。怪盗もどきが店主を確保した一瞬後、忍者たちが怪盗もどきを包囲する。短剣、片手剣、短杖など思い思いの武器をウェディの首筋に突きつける。
俺の首を押さえる忍者頭領・主零。その主、店主の首をホールドする怪盗もどき。怪盗もどきの首を狙う忍者たち。ここに膠着状態が完成した。化け狸の包囲は見なかったことにする。
一瞬遅れた部下たちの包囲網に苛立ちながら、店主がウェディに向かって叫ぶ。
「カハッ…!君、まで、邪魔をするやつが、あるか、エバン君!!あのまま大人しく寝てれば、この島から出してあげると約束したろ!!」
「悪いねおじさん。察しの通り、僕は難しいことがわからないから、グラサン君との諍いはほとんど理解できなかったけど…そういう話なら僕はグラサン君につく」
愕然とする店主を尻目に、ちゃぶ台返しの権化のような男が、高らかに宣言した。
「女性を守ることが、全てに優先する!!」
一同、ぽかーんとする。
…ああ、うん。おっさんもこうなりたくなくて、怪盗もどきをコテージに監禁しておきたかったんだな。よくわかるよ、その気持ちだけは。今さら、店主に同情した。
あとはままよと、俺はやけくそで叫ぶ。
「おい、おっさん!!参ったと言え!!早くこの馬鹿みたいな状況を止めてさしあげろ!!」
「こ、の…!!こっちが下手に出ていれば、調子に乗りやがって…!!後半から他人頼みじゃないか!!恥ずかしくないのか君は!!」
「アンタには言われたくないなあ、このクソ理系オーガ!!」
「君が人質になれば、メルトアを滞りなく排除できるんだぞ!!君の貴重な二年間を不意にさせた憎むべき女のはずだ、なぜそこまでして拒絶する!!今からでも遅くない、僕の手を取れ!!!」
「できるかっ!!」
お互い様ながら、醜い口喧嘩を繰り広げる店主に対し、俺は見栄を切る。
「アンタの言う通りだよ!!俺はあの女のことはなんにも知らねえ!!端から見れば酷い目にしか遭わされてねえ、わけのわからん奴だ!!
だからこそ俺がじかに会って、メルトアに問いたださなきゃならねえ!!何のために俺を助けたか、何のために俺を鍛えたのか、何のために呪術王と戦わせるのか!!
それが済むまで、あいつは俺の獲物だ、誰にも邪魔させない!!これ以上面倒事を持ち込むなぁぁぁーーーー!!!」
絶叫が、曇り空に高らかに響いた。
そして、久方ぶりの静寂が場を支配する。お互いに刃を突き付けられたまま、固唾をのんで店主の答えを待った。
永遠とも思える沈黙が何秒か続いた後、ようやく。
「――ああ、もういい。面倒くさい」
首をホールドされたまま、店主が意気消沈して答えた。
「僕の負けだ、ジャック君。裏クエスト屋は、オールドレンドアから撤退する」
これでいいか?と目配せした後、店主が合図する。がしゃりと、主零を始めとした忍者たちが武装解除した。それに合わせて、怪盗もどきも店主を鷲掴みにしていた手を話した。
これにて、全ての刃は収められた。
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