***
――〇月×日 土曜日 昼十三時前後。
裏クエスト屋店主との交渉が終わった直後、俺たちは少々の情報交換と、この後の行動について簡潔に話し合った。
裏クエスト屋の面々は、オールドレンドア島から即時撤退することになった。メルトアと戦えないことになった以上、この島に残る意味はなくなったのだから当然である。
ただし、一人だけ――おぼろ忍群頭領の主零だけは、呪術王と対策チームの戦いを見届けるため、島に残ることになった。
この際、あくまでも見届け人としての役割に徹して、俺や対策チームには決して手を出さないという約束を取り付けた。
油断したところを後ろから刺される――なんて冗談ではない。この混乱した状況、不確定要素は少なくするに限る。
次に、怪盗もどきと化け狸について。
この急に増えた二人は、たまたまこの島に滞在していたところでレンガの氾濫に遭遇、ピンチに陥ったところをおぼろ忍群に保護されたのだ。勿論タダではない、各々取引込みで助けてもらったのである。
オールドレンドア島の外れにあるコテージ、つまり現在位置において、呪術王と対策チームの戦闘が落ち着いた頃を見計らい、裏クエスト屋が取り付けた貸し船に相乗りして脱出する――というのが元々の計画だったのだが。
「こっちを裏切ってジャック君に味方しといて、何言ってんの?そんな契約は無効だよ。自力で脱出しなさい、僕はもう知らん知らーん」
という、店主お得意の横紙破りにより、脱出計画は白紙になった。
化け狸はうええー、と言っておどけたが、それ以上店主に対してゴネたりはしなかった。元々覚悟の上だったのかもしれない。
店主との交渉において、俺に味方してくれたのはこの上ない幸運だったのだが。トリックスターを気取る化け狸が慈善だけで手助けするはずがない。
何か裏があるんじゃないか…と疑ってカマをかけたのだが。
「そりゃ…あるさ、裏くらい」
と、歯切れ悪そうに言うばかりで、これ見よがしな要求も何もしてこない。以前見たキレは一体どこへ行ってしまったのか。俺は不気味に思った。
「細かいこたあいいんだよ。今はグラサン君がしたいよーにやってくれればよろしい。今日は特別に、俺様が全面的に支援してやる。ついでに脱出経路の工面もしてくれると嬉しい」
と、化け狸が俺の足をべしべし叩く。誤魔化すばかりの彼を訝しんだが、追及するには時間が足りない。島を脱出するために恩を売りたいんだろう…ともっともらしい理由をつけて納得することにした。
俺と化け狸が会話している最中、怪盗もどきはコテージの階段に腰掛け、ぐったりとしていた。
容態は、化け狸よりも怪盗もどきのほうが深刻だった。おぼろの忍者に保護される前、彼は突然現れた魔物と戦闘になった挙句、氾濫するレンガの下敷きになったのである。そして、重傷を負いながら自力で這い出し、ある場所で倒れていたところを保護されたのだ。
忍者たちの治療で峠は越したものの、身体の奥底に負ったダメージは一朝一夕では抜けないし、深い切り傷などは呪文でも完全に塞がるまで時間がかかる。激しい運動や戦いをした途端、出血死しかねない状態だった。
・続き:
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7616223/