「――貴様、なんなんだ…!!弱いくせに、絶妙なタイミングで邪魔しやがって…!!」」
そんな台詞を吐く呪術王を見て、段々と恐怖が収まっていくのを感じた。
瞬殺するつもりだったのか、脅しだったのかは知らないが、露骨な殺意がかえって俺の精神を冷やした。おかしなことに、呪文を避けたことで小さな自信が芽生えてしまった。
――そういやそうだった。あのドラゴンと比べたら、こいつは全く『怖くない』。
勝ち筋はもう見えてるんだ。次に呪術王を対峙したら絶対に勝てると、普段だったら絶対持たないレベルの確信を俺は得ているのだ。
そう思うと、恐怖が鳴りを潜めるどころか、むくむくと怒りが込み上げてきた。
「裏社会の作法も知らんのかてめえ!屈辱を受けた相手には倍返し、相手がオーグリードにいるなら、例えプクランドにいようとナイフを持ってすっ飛んでいくのが渡世の掟!!
そして足を引っ張るときは全身全霊で裾を引っ張るのがチンピラだ!!この恨み晴らさで、枕を高くして寝れるわけがねーんだよ!!!」
俺は大声でまくし立てた。当然のように呪術王は反発する。
「そんな掟は知らない!!勝手に巻き込むな!!」
「いーや、勝手なことを言い出したのはお前が先だ!!自分ルールをこじらせてカタギに迷惑かけてるやつが、今更他人の勝手に憤ってるんじゃねえ!!」
「――な、なんだと」
「お前、言ったよな?お前はこの世界に生まれたその日、特別な能力を得た!!
そいつはヒトや魔物を簡単にぶっ殺しちまう代物で、ふとした拍子で他人に危害を加えちまうかもって考えて、怖かったと!!そう言ったな!!」
「そ…そうだ!!この世界に来たその日に、スライムを殺した、馬を殺した、人間の死体を消した!!コマンドひとつ、指先ひとつ触れただけで、そうなった!!
お、俺はただの人間だったんだ!!こんな生き物を殺すためだけの能力、欲しくなかった!!」
呪術王は悲壮な顔で、そう訴えた。
人外の才、天地を揺るがすチカラを持った苦しみなんて、想像を絶する――絶するが故、俺の知ったことではない。
「――バカ野郎、甘ったれんな!!」
「な!!?」
「どんな恐ろしげな魔法だろうが、たかだかヒトの身に宿った才能、コントロールできないはずがねーだろ!!?
現に、お前は魔法を使って麻薬を生み出し、魔物を生み出し、組織を回した。闇の組織だろーが関係ねえ、周りにヒトがあふれてるんだったら、そいつはお前が魔力を完璧にコントロールしてる証だ。
お前が恐れた能力は、お前が考えてるような、近づく者全てを殺す災厄じゃねえ。あくまでてめえの身の丈にあった、便利な才能だ!!なにをいつまでも女々しくビビッてやがる!!?」
「…っっ」
「ということは、だ。お前が関わったヒトが死ぬのはな。そいつはお前の才能のせいじゃねえ…」
「…やめろ」
泣きそうな表情を浮かべる呪術王に対して、俺は毅然と、その罪を糾弾する。
「――徹頭徹尾、お前自身の意思だ!!『お前』が殺したいから殺してるんだ!!『お前』が周りからそそのかされて、社会を引っ搔き回したんだ!!
それを『自分の中の化け物』だのなんだの、よくわかんねえもんのせいにしてるんじゃねえぞこの野郎!!」
「――――」
呪術王は、俺を恐れるように身体をのけ反らせ、愕然とした。
俺が昨夜、呪術王の所業を聞いてから降ってわいた嫌悪の根拠が、これだ。こいつは、自分が犯した所業から、ひたすら目を背けている――呪術王の心を刺すなら、糸口はここだ。
「――それに、今の社会、なんもやってない奴をむやみやたらと排除したりしない…わけでもないがよ。放置したら民間人に危害加えるような勢力を、法治国家が放っとくわけねーってことくらい、わかるだろ?
お前らの組織が解体されたのは、お前らが、黙ってたらアブナイ麻薬流したり、カタギをさらってエグイ人体実験やるようなヤバい連中だからだよ。お前が得体の知れない化け物だからじゃない。
二年前にとっ捕まったベリルってやつも、お前の愛人も、悪さかましてきたツケを、そんとき払ったってだけだ――どう転んだって、お前らの自業自得なんだよ」
・続き:
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7616237/