――そして、二年経った。今、目の前にその『倉庫』があった。
考えてみれば妙な場所である。小さい広場に二本の木が植わっていて、そこに木造の狭い小屋が建っている。レンドア島に立つ物件にしては妙に田舎臭い。倉庫というより、農家の道具置き場のようだった。広場の周りは妙に背の高い建築物に囲まれ、はるか天井から陽光が降り注いでいる。
……今気づいたけど、周りの建物がレンドアの倉庫とは違う物件に見える……さっきまでレンドアの町並みを歩いてたはずなのに、まるでいきなり違う土地に迷い込んだかのようだ。
……これあれか?俗に言う妖精郷というやつか?帰りたくても帰れないやつでは?
決戦に挑む気持ちもどこへやら、急激に意気がくじけていく。これ帰っちゃダメかな?いや、これは家主の許しなくば、帰り道が見つからないパターンと見た。話が終わるまで帰れま10(テン)。ドラクエ10(テン)だけに。いややかましいわ。
――どうやら、向こうも不退転の覚悟で話をするつもりのようだ。だったら、俺もとことんまでやってやる。
ハァーーーッと息を吐いて、俺は小屋の扉を開いた。
***
小屋の中は、窓から射す日の光で十分に明るかった。
部屋の中央には木製の新しい丸テーブルが置かれていて、その上には何も置かれていなかった。テーブルの脇には四本足の椅子が二つ。かつて見た光景とまったく同じだった。
そして、テーブルを挟んで向こう側に置かれた椅子に――奴が座っていた。
赤いインナーに黒いジャケットを羽織り、下半身は黒いズボンと茶色のブーツ。手首まで覆う黒い手袋をはめており、顔以外は肌の露出がほとんどない。ウェディ特有のヒレのような耳は、顔の両側に生えそろっている。
いつものにやにやした表情はなりを潜め、真剣な、しかし穏やかそうな顔で、奴は俺を見据えていた。
見知った姿、見知った女の顔であるのに、そっくりな別人を眺めているかのような感覚を覚えた。あまり見ない表情なのは確かだが、それ以上に何か――根本的な部分が、以前とは違っているように見えた。その理由は上手く言語化できなかった。
「やあ、来たね。用心棒」
女が、軽い挨拶をよこした。やはり、知っている声なのに違和感がある。いつもの、ヒトを小馬鹿にした調子ではなく、ごく穏やかな大人の女性の声音だ。同じ声質でも、話し方でこうも印象が変わるのか。
恐らく、この二年間接してきた『メルトア』という女性像の大半は、この女が意図的に演じて作り上げた虚像なのだ――そう感じさせる豹変ぶりである。多分、今の態度が、この女の素の姿なのだ。
妙な艶を感じる声で、女が続けた。
「色々話すことはあるんだけど――先にそちらの要件を済ませようか。わたしに渡すものがあるんだろう?」
女に促されて、俺は当初の目的を思い出した。同時に、小屋の前で置き忘れていた闘争心も少し戻ってきた。
俺は腰にさげたずた袋を五つ、テーブルの上に乱暴に放り出した。ジャラジャラと甲高い音が響いた。
女は無言でその袋を見つめ、そして俺を見た。中身については察しがついてるはずだ。
「一袋につき百万ゴールド、それが五つ。五百万ゴールド、きっちり用意したぞ」
それは、一週間前にメルトア――目の前に立つ女が俺に課した課題。わずか七日間で五百万ゴールドを稼げという無理難題への、回答だった。
***
返済計画 進捗状況
6, 7日目 金策集計:
0日~6日目の貯金額 329万5千3百 G
呪術王捕縛報酬(世界警察支給) 200万 G
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合計 529万5千3百 G
7日目支払予定金額 500万 G
【Congratulations!!! 目標金額に達しました!!!】
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・続き:
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7691821/