俺は、世界警察警視長のポポムに召集されたことで、オールドレンドア島の作戦に参加した――が。そもそもの話、ポポムからしてみれば、オールドレンドア島に俺を呼ぶ必要はなかった。これは、カワキにも指摘された通りである。
あの島には冒険者基準でも世界トップクラスの戦力が集まっていた。そんな戦闘のプロであっても重傷を負う可能性があった、それはそれはハイレベルな戦場があそこだった――尋常の判断では、世界警察の高官が、そんな危険地帯に、それほど強くない第三者の冒険者を呼ぶはずがないのである。どう考えても、外部の冒険者を作戦メンバーに招く面倒がでかすぎる。実際、ポポムは作戦開始前の調整に苦労しているのをこの目で見た。フィンゴルの口添えがなければ、俺はあの場で放逐されていただろう。
誰が見てもわかる悪手。そんなことはポポム自身もわかっていたはずである。悪手を強引にでもポポムが通した理由があるとすれば――ポポムよりも『上』の人物が、そうするよう命じていたとしか考えられない。即ち、キリンである。
「ポポムも、あんたの『協力者』だったわけか」
俺の問いに、キリンはこくりと首肯した。
「昔、彼女が死にかけたときに助けた縁でね。色々『お願い』を聞いてもらってる。
誤解しないでほしいんだけど、彼女が君に助力したのは、わたしの命令じゃなくて彼女の本心からだよ。あの子は『時の王者』になる前から、他人に騙されて困っているヒトを放っておけない熱血漢なんだ。
わたしが『お願い』したのは、あくまで『本人が望めば、君が戦場に来れるよう手助けをすること』ということだけだ」
キリンはポポムを庇うように言った。ポポムとは結構浅からぬ仲らしい。
俺は頭を振って、責める意図がないことを伝えた。ちょっとめまいがしただけだ。
あのふてぶてしい切れ者とキリンが繋がっていたことがかなりの衝撃だった。ポポムがただの高官じゃないことはわかっていたつもりだが、裏社会の人物に顎で使われる立場だとは思わなかった。こんなこと、仮にアストルティア新聞社にでも漏れたら、とんでもないスキャンダルになる。
……頭が痛くなってきた。そんな手が有りならもう、やってやれないことなんて何もないんじゃないか、このヒト。
この分だと、次はフィンゴルも回し者だとか言い出しかねない。そうなったら卒倒する自信がある。これ以上、細かい追及はよしておこう。
「……なんで、こんなことをしたんだ?」
俺は、根本的な疑問を聞くことにした。キリンは黙って耳を傾けた。
「あんたが相当な労力をつぎ込んで、カワキを追い詰め、俺と奴を対決させる構図を作ったのはわかった……だが、そうまでして『俺とカワキの対決』という構図にこだわったのはなんでだ?」
「そりゃあ、それこそがカワキを倒すための策だからだよ。成長した君をぶつけることで、弱体化した奴を仕留める…」
「馬鹿言うな。俺をカワキにぶつけるくらいだったら、あんたがカワキを仕留めた方が楽に決まってるだろ。いくら俺でも、万全のカワキを倒せると思うほど自惚れちゃいねえよ。
あんたが純粋に『カワキの暗殺』を全うしようとしてたなら、俺を関わらせるメリットなんかあるわけねえ」
「バレたか」
キリンは舌を出してそっぽを向いた。懲りてる様子が全くない。
・続き:
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7711912/