「『家族に助けを求めない』という選択をしたなら、僕らからできることは何もない。ただ、待つことにした。ジャックが自分のチカラで問題を解決して、僕らの元に報告に来るまでね。
そして今日、戻ってきたということは、ひとつの決着(ケリ)が付いたんだろう?なら、あとは僕らがそれを聞くだけだ。難しいことは何もない」
「……そんな上等な考えはなかったけど」
親の心子知らずという言葉がよぎる。正直、両親の無条件の信頼が重かったが、そんなことを聞かされたら、尚更逃げるわけにはいかなくなった。
「怒られる覚悟は、今決めたよ」
「よろしい」
父はニカッと笑顔を浮かべた。
「まあ、遠巻きに僕らを見ていたくらいだ、かなり決心が揺らいでいたのかもしれないけど。あそこで駆け寄ってきてたら、それこそ母さんが怒ってたろうよ」
父はハッハと笑った。何から何までバレてら。俺はバツが悪くなって目を背けた。
「父さん、俺――」
「待った」
この二年のことを謝ろうとした俺の言葉を、父は遮った。
「積もる話は、家に帰ってから聞く。弁明も何も、やるならその後だ」
「うっ……」
「母さんに会うのは気が重いだろうが、ジャックなら何も問題はない。あまり母さんを待たせるなよ」
それだけ言うと、父はベンチを飛び降りて歩き始めた。
「先に帰るの?」
「いや、仕事に戻る。もう昼休みが終わってしまう」
「そ、そうか……ごめん、邪魔した」
「いいよ、こっちの方が重要な話だ。また夜話そう」
「そういや、マヨのやつ、まだ家にいんの?」
「昨日、ドルワーム王国に帰ったよ。だから、今帰ってきても一家団欒とはいかないな。また今度、マヨがいるときに顔を見せに来なさい」
じゃ、と、後ろ手をひらひら振りながら、父はガタラ市内に去った。
***
再び、実家前。
区画の入り口から実家の方を見ると、中庭の入り口に仁王立ちする母の姿があった。
両腕を胸の前で組み、それはもう堂々と。剣士だった現役時代に立ち返ったかのような気迫だった。
その気迫が俺に向けられているのをピリピリと感じつつ、俺は歩を進めた。
物陰に隠れて様子を伺うような真似はもはや出来ないし、する必要もない。今度こそ恐れず、母の眼前に立つ。
――風が凪いで、湖のさざ波がわずかに収まるまでの間、沈黙が続いた。
お互い、どう声をかけるか迷っていたのだと思う。
沈黙に耐え切れず、俺が口を開こうとした矢先、母が口火を切った。
「よくもまあ、あたしの前に顔出せたもんだね」
鋭い眼光が俺を射竦める。四年間鬱々とため続けたとでも言いそうな怒気が、容赦なく俺を刺す。
俺は目も身体もそらさず、母の怒りを受け止める。
「厚顔無恥は、働き始めて最初に覚えた技術だ」
「……減らず口は相変わらずのようだ。さぞ、ろくでもない仕事ばかりやってきたんでしょう」
母はため息をついて、淡々と続けた。
「ガタラズスラムに、詐欺まがいの依頼事を斡旋するふざけた輩がいて、あんたがそこに入り浸ってるって聞いた。それは本当のこと?」
「事実だ。誤魔化しようもねえ。モリナラの珍獣を密漁したり、麻薬の運び屋をやったり、色々やった」
「父さんがそれを聞いたとき、どれだけ落胆したか、あんたは知らないでしょう。
小さい頃、自分は英雄になれないって言って泣いてた子供が、そこまで道を踏み外すとは思わなかった。こうなるのがわかってたなら、あたしもあんたを鍛えたりしなかった」
「父さんや母さんの育て方は関係ねえよ。
四年前、俺がここを出て行ったこと。借金したこと。借金の返し方を間違えたこと。全部、俺が招いたヘマだ」
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