「今回もご面倒をおかけします」
「はいはい、もうこの際だから最後まで付き合うわよ。そろそろ出発する?」
はっとしたポポムの質問に、俺はうむと答えた。
「――行くのか」
これまで沈黙を保っていたフィンゴルが口を開いた。岩戸のような瞼を片方だけ開いて、ポポムと俺を見た。
「ええ、コイツを連れて『外回り』に行ってくるわ」
「相変わらず、文句を言うわりに面倒見がいいな。奴の指令はもう終わっているだろう?」
「乗り掛かった舟だから」
ポポムの素っ気ない答えに、フィンゴルはグッグッとくぐもった声で笑った。慣れっこのやり取りらしい。それだけ、ポポムのヒトの好さが板についているのだろう。
「フィンゴルさんも、今回は大事な作戦にしゃしゃり出て、すんませんでした」
病室を去る挨拶に、俺はフィンゴルに頭を下げた。キリンのしたことを考えると、フィンゴルとポポム以下、世界警察の面々には面倒しかかけていない。一言謝っておくのが筋だろう。
フィンゴルは軽くうなずいて謝意に答えると、俺の顔をじっと見つめた。
「奴――キリンについて、どう思う?」
「……正直、筆舌に尽くしがたいです。二年間だけの付き合いですが、何を考えているのかさっぱりわかりません」
「本官も同じ考えである。一度殺し合って尚、腹の底が読めない女だ。厄介な人物に憑りつかれているな、君は」
「ハハ……呪い殺されないよう頑張ります」
「また困ったら、ポポムに相談すると良い。こんなナリだが、お人好しを中道で行く女だ」
「んんっ」
ポポムがわざとらしく咳払いした。フィンゴルはフッと笑った。お互い気が置けないといった風だ。こんなに仲が良かったのか、この二人。
「……そういえば、キリンと殺し合ったって、いったいどういう経緯なんですか?」
「それを教えるほど、本官は君を信頼していない。聞きたければ、我が傭兵団の門を叩くことだ」
俺の何気ない質問に、フィンゴルはふいっと寝返りを打って、そっぽを向いてしまった。思ったよりデリケートな話題なようだった。
一瞬だけ沈黙が続いたが、さすがに感じが悪いと思ったのか、フィンゴルは言葉少なに漏らした。
「我が悲願と、奴の任務がかちあったのだ」
「……悲願」
「独り言だ、そろそろ行きなさい」
取り繕うようにフィンゴルが促した。俺もそれ以上追及するのは悪いように思ったので、最後のお礼を言った後、病室を出た。
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