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自宅の菌類

アオマリモ

[アオマリモ]

キャラID
: RU977-303
種 族
: ドワーフ
性 別
: 男
職 業
: 魔法戦士
レベル
: 130

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アオマリモの冒険日誌

2024-07-14 20:31:06.0 2024-07-14 20:37:02.0テーマ:その他

街談機関 エピローグ「補講:キリンについて」21


 その答えに満足しなかったのは、キリンも同じだった。竜の顔を悲しそうに歪めながら、ジャックの身体を強引に引き起こした。

「そうじゃない、そう言ってほしいんじゃないんだ……もう、放っておいてほしいんだよ。
 君と一緒にいたら、わたしは今以上の怪物になる確信があるんだ。こんな感情、わたしが持っちゃいけなかったんだ。
 こんなものを引きずっていては、周りの面々を殺しかねない……そんな激しいものが、わたしの身の内にある」

 虚ろな目をしたままジャックを引きずり、背後の大木にドンッと押し付けた。
 ジャックの左手を自分の手で大木に縫い付け、互いの顔面が触れ合う寸前まで近づける。

「誰にも話していないことを、話してあげる。碑にも書かなかった、わたしの核だ」

 ジャックとキリンの吐息だけが混ざる、二人だけの空間の中で、キリンは禁忌を話し出した。血を吐き出しているとキリンが錯覚するような、呪いの言葉だ。

「わたしは確かに、タリューに恋をしていた。それを、タリューにも伝えたことはあった――けど、彼は応えてくれなかったよ。若い君と、人生の斜陽に入った自分とは釣り合わない。もっと相応しい相手を探せ……ってさ。
 あの日のわたしは小娘だったからさ、仕方ないよ、仕方ない話なんだよ、それはわかってた。けどさあ、わたしは悲しくて、悲しくて悲しくて悲しくて、狂って狂って狂い咲くほど悲しくって、一日経っても、二週が過ぎても、ひと月が潰れても、わたしは狂ったままだった。
 そんなときだったんだよ、タリューが死んだのは。この世で唯一、わたしの角も目も肌も恐れてくれなかった男が、二度とわたしの手に触れられないところに行ってしまった。わたしは彼に狂ったまま、それを解(ほど)く機会を失った。
 そうなったらもう、なんにもわかんなくなってた――気づいたら、わたしはタリューの墓を暴いて、彼の小指の骨を、喰ってた」

 絞り出すような言葉だったが、キリンに取り乱した様子はない。この忌まわしい記憶で流す涙など、とうの昔に枯れ果てた。
 それは、キリンの禁忌のひとつだった――自分が激したとき、これほどまでに狂えるのだという恐怖。

「生まれてからずっと、わたしは何者なのか悩んでいたけど、もう答えは出た。なんてことはなかった、ただの竜だったんだ、わたしは」

 あの事件から二十数年、向き合えても、乗り越えてもいない記憶。だが、ヒトに話したときの、その『呪い』の強さは理解している。
 呪いにも等しい告白を受けたジャックの目は、色を失っていた。全身が鳥肌立ち、足も手も小刻みに震えている。極度の緊張から来る浅い呼吸も、そもそも自分が恐怖していることも、今しばらく気付くことはない。彼の人生に比較するものがない、凄まじい衝撃だった。

 この女は、助けるべきものではない。殺してでも止めるべき怪物だ。
 心に降って湧いた言葉を、ジャックはこの後一生、後悔することになる。

 血を吐くようなキリンの告白はなおも続いた。

「こんなどうしようもないもの、死んだ方がいい。だから、暗殺者という、死を取引する、恨みを買いやすい仕事を始めた。いずれ、誰かがわたしを野垂れ死にさせてくれるはずだから。
 ――けど、死ねなかった。こんなどうしようもないものを誰も殺せはしなかった。悪鬼も、妖剣士も、水竜も、呪術師も魔軍師も怪蟲も暴君も、冥王も、新しいオルドの小僧も、タリューと同じ世界から来た呪文使いも、どんな魔物も英雄も――わたし自身も。わたしの命には、届かなかったんだ」

 そう告白するキリンは、自分への諦観に満ちていた。人生をかけて自分に問い続けたものが、なんと単純な幕引きを――

「だからさぁ……こんな、ヒトを食うしか能のない竜を、好きになってどうすんの――君は」

 最後は、泣き笑うような顔だった。これもまた、ジャックの今までの人生で見たことのない、複雑な色だった。

・続き:
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7871269/
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