「……君は、勝手に死なないでね」
「約束はしねえ。多分、あんたより俺の方が先にくたばるだろうよ。
ただ、死に急ぐことはしない。死ぬなら、あんたを守るためだ」
「……」
青年は、竜にひざまづいて、二つ目の誓いをした。
「あんたが世界中のヒトビトから石を投げられても、俺は必ずあんたの側に立つ。あんたが自殺を望んだら、俺も手を尽くそう。
その結果として俺が死んだら、小指でもなんでもくれてやる」
「……カッ」
竜は喉を短く鳴らして、青年の額を弾いた。照れ隠しだろう。
青年も竜も、身の内にある感情に名前を付けることを拒否した。そうでなくても、ありきたりな名前を付けるには、この感情は複雑すぎる。
愛し合いながら殺し合い、罵り合いながら絡み合う、その激しい熱を、そのまま受け止めようと思った。その感情の行く先は、誰も知らぬ。
キリンは小屋の扉を開け放した。ジャックはキリンの目を見ながら、扉をくぐった。
「じゃあ、また」
「またね、少年」
短い挨拶の後、青年と竜は時空を隔てて別れた。
***
雑踏。レンドア駅は今日も行き交うヒトビトの姿で大賑わいだ。
青年は、たった今出てきた扉がかき消える様を見ながら、傍らに立つ忍者を見た。ジトッとした目で青年を睨んでいる。「ジャックさん、覚悟はできてるです?」と言いたげである。
「大丈夫だ、多分。嘘つきな正義の魔女は、男への執着が強いんだ」
なんてことないように青年は言う。忍者はわずかに肩をすくめながら、駅の出口に歩み去った。
忍者の後ろ姿を見ながら、青年は今後の予定を思案した。特に何も思いつかなかった。傭兵組合に出した有給申請は、まだ何日か残っている。
うーん、と頭をひねること数秒。ポンと手を叩いた。
「……よし、ラッカランに遊びに行くか!!」
そう、能天気につぶやいた青年は、レンドア駅の大階段を登っていった。
ありふれた青年の姿は、すぐに雑踏に紛れていった。
(エピローグ・了 第7エピソード「補講:キリンについて」完了)
<<街談機関・完了>>
to be continued to レンドア帝政 レンダーヒルズ編
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