「姫様方、サキア様と雪様がお出かけになられました」
「…そう、使い魔はつけたのでしょうね」
「もちろんでございます」
「ありがとうみらい、下がっていいわ」
姫主の二人に一礼をし、魔界宮殿唯一の使用人は城の奥へと下がる。
まおんは小さく息を吐き、先ほどまで緊張の走っていた空気を吸い込んだ。「…対策を練らなければいけないわ」
それも早急に。
アーミラはうなずいた。
「ところで…アーミラ? 今日は満月?」
「いいえ、違うわよ。それにしてはあなたの魔力の気配が大きすぎる気もするのだけれど」
「…私も、そう思っていたのだけど」
そこで二人は、互いに身に覚えのない現象が起こっていることに気づいた。確かにいつもよりも遥かに高い魔力を感じる。
しかしその気配は馴染みの深いものであり、だからこそ、満月で力を増幅させた片割れのものだと思っていたのだが…。
「危険だわ、侵入者かもしれないっ。まおん、今すぐみらいを呼んでサイコマスターの衛兵隊を! 私は結界を」
「そんなに丁寧にお出迎えしてくれなくてもいいのに」
かわいらしい少女の声が、広間に響いた。
「…ね、お姉さま♡」
指揮を取ろうと掲げたアーミラの腕を、優しく下したのは、ひどく冷たい手だった。
驚きと悪寒についに膝をつく。
まおんもまた、動揺して固まった。
まぎれもない。そこで微笑んでいるのは、忘れられた血族――復讐に血を燃やすセラであった。
ふわり、と距離を取る。
眼前では消されたセラの記憶が呼び覚まされようとして苦痛に顔をゆがめる魔族の姿があった。
「苦しそうね、まおんお姉さまにアーミラお姉さま」
返事をすることもできない。
荒く息をしながら二人はどこか違う場所を見ている。
ああ、お姉さまたち
思い出してしまえばいい。
わたしのことも、「あの日」のことも
みんな、みんな思い出してしまえばいい――!