うらぶれたガタラの酒場の片隅で
その老ドワーフは静かに語り始めた―――
その昔、このアストルティアには
ひとりの騎士がおったそうな。
その名をドン・キヒツジ・デ・ラ・マンチャ――――
その大層な名とは裏腹に
実は騎士でもなんでもなく
妄想から自らを騎士と思いこんだだけの
ひとりのドワーフだったそうじゃがの、ふぉっふぉっふぉ。
歳が歳だけにボケておったんじゃろう、
あるときは迷宮の奥深くで腕が6本あるライオンと闘った、だの
またあるときは頭が5つあるヘビを見た、だの
いつもウソみたいな冒険譚を語っておった。
巨大な魔神が出た!と言って
『 ロシナンテ 』と名付けたドルボードに跨り
キラキラ大風車に突撃しそうになったときは
街の者が止めるのに往生したそうじゃ、ふぉっふぉっふぉ。
ん?その騎士は今どこにおるかじゃと?
なんでも空に浮かんだ門から竜族の世界に行ったとか、
アトラスに踏みつぶされて死んでしまったとか言われておるがのう。
旅の人よ、ワシはその騎士が意外と近くにおるような気がしなくもないんじゃよ・・・
ふぉっふぉっふぉ―――
老ドワーフはそこまで語ると
ドワチャッカ酒を舐めるように飲みながら
壁にかかった一枚の写真を懐かしむように眺めていた―――
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時には昔の話を 作詞・作曲 加藤登紀子 より抜粋
小さな下宿屋にいく人もおしかけ
朝まで騒いで眠った
嵐のように毎日が燃えていた
息がきれるまで走った そうだね
一枚残った写真をごらんよ
ひげづらの男は君だね
どこにいるのか今ではわからない
友達もいく人かいるけど
あの日のすべてが空しいものだと
それは誰にも言えない
今でも同じように見果てぬ夢を描いて
走りつづけているよね どこかで