映画を見に行きたい!!
ヴュアの自宅
突然 そんな事を言い出したチェル
「倒れない自信はあるのか?」
僕たち精神障害者は
街に遊びに行くことさえ
危険が伴う
いつ精神障害が悪化して
倒れるか わからないからだ
「これを見てよ?」
映画のタイトル
「二人で埋め合う欠けた物」
「精神障害者の主人公と
それを世話することになった
ヘルパーが
互いに恋に落ちる
ラヴストーリーなのよ!
親近感が湧くでしょ!?」
だから見に行きたいのか
そういう設定にするとわ
また 物好きな
回想
「あの子は貴方には
我がままを見せてあまえられる
あの子にとって
貴方はそういう存在みたいですね」
回想 終了
チェルの母に言われた事を思い出した
チェルは我がままを言うのは
僕だけなのか?
そう思ったら愛しくなってきた
「精神障害者手帳を
忘れるなよ?」
映画が半額で見られるからだ
「もちろん」
「じゃあ
明日 行くか」
「やったー」
父の友人の美容師に
身だしなみを整えてもらった
普段だらしない僕よりは
(精神障害が ひどすぎて
身だしなみすらできない)
まったく良い感じだ
チェルは
おしゃれしてくれたことを
好ましく思ってくれたらしい
映画の上映時間は22時のにした
この時間が睡眠薬を飲む
僕たち精神障害者には
朝から起きてから比べて
薬が抜けきっている
天と地ほど違う
チェルはコーヒーやジュースは飲まない
カフェインで眠れなくなるのと
ジュースの砂糖で
糖化による老化の侵攻を
強くしたくないらしい
美容のために
そこまでする必要があるのか?
そういえば料理とかも
おいしい まずいとかではなく
これは美容に良い
栄養素が足りて居るとか
そこで判断して食事に満足する
ポップコーンも
こんな時間に食べると
胃が消化しきれず
腸に負担をもたらし
美容に悪いと言う
チェルは
おいしいものを食べたことが
あるのだろうか?
水だけを口にし
薄暗い映画館の中
「二人で埋め合う欠けた物」という
恋愛映画を見た
帰り道
「まさかヒロインがド〇で
主人公が女装させられるなんてね~」
「(・・・なんだろう
チェルにも似たようなことを
されているような?)」
「あのヒロインに好感を持っちゃった」
「(・・・まあ
・・・そうでしょうね)」
「そのヒロインが女装した男の美貌で
ナンパされた数で負けるの
面白かったな~」
映画の感想を語りながら
並んで歩く二人
「ヒロインは
愛されたことが無いって
言ってたね?」
「そのヒロインは子供のころ孤児院に
引き取られていて
その孤児院院長の一人息子が
引き取ってくれそうな
里親候補に
誰も引き取るなと
裏で手を回してたんだね」
「そのせいで愛されないと
感じて生きてたなんて
可哀相
でも
主人公から感じる
この感情はなんですか?って」
「それが愛だったんだね
主人公が僕たちのような
精神障害者で
学校も社会生活もできなくて
普通を知らない」
「愛を知らない女の子と
普通を知らない男の子
お互いに それを
埋め合ったんだね」
「二人で埋め合う欠けた物
タイトルは
そういう意味だったのか」
チェルはヴュアの方に向き直り
あの言葉を使う
「・・・せめて・・少なくとも
この感情が何か
わかるまででいいから!!
・・・貴方の
・・・傍に居てもいいですか?」
そう言って すがるような
上目使いの目で
ヴュア見つめた
・・・おい
あのシーンをやれって言うのか?
これに
つきあってあげるべき・・・か
・・・たぶん
・・・こんな夜中に
誰も居ないだろうから
そんなチェルを優しく抱きしめて
「居てもいいよ」と
耳元で ささやいた
「キャアアアア!!」
急に叫び出したチェル
びっくりして
抱き締めたウデを僕は離した
「映画のラストシーン
そのままだ!!
ねえ ヴュア!
今の もう一回!
もう一回しようよ!!」
・・・恥ずかしくて
やってられるか
そう言ったら不満そうに
頬を膨らませていた
時刻はとっくに深夜
もう帰って寝なきゃ
街に出かけることができたんだな
倒れずに
こんなことができた自分に
驚きを隠せなかった
何かが変わったのか?
ならば
そうさせたのは
やっぱり君なのかチェル?
映画で興奮が冷めないチェル
ベッドに入っても
映画の話を持ち掛け
話すのをやめようとしない
・・・おい・・寝不足は
美容に悪いんじゃなかったのか?
しかたがないから
その話に つきあっていたら
気が付けば朝陽が昇っていた