「え~と、まず名前は?」
「オレはマージン。こっちは息子のハクトだ」
「マージン、ね。今日はヴェリナードに何の為に?」
船を降りた二人を待っていたのは、熱烈な歓迎、ではなく、武骨な警備隊長による検問であった。
「おいおい。そちらさんの依頼で働いてるってのに、随分ご無体だな。オーディス王子の発注した、女王様の誕生日祝いの記念花火の納品だ。伝わってないか?」
「おお、そうか。それは失礼した」
警備兵は手持ちのファイルを数枚めくると、目当てのページを見つけたようで、文面を指さし確認をしながらマージンに笑顔を向けた。
「確かに連絡が来ている。失礼した。しかし、今はちょっとした緊急事態中でな。念のため、馬車の積み荷をあらためさせてもらうよ。…おい、確認しろ」
警備隊長の指示で、後ろに控えていた若い兵士二人がマージンの馬車へと歩みを向ける。それを横目に、マージンは尋ねた。
「ヴェリナードには仕事で何度も足を運んでる。もっとフレンドリーな街だったと思うんだが?」
今回のように検問を受けるなど、マージンには初の体験だった。
「うむ。まあ、話しても構うまい。実はディオーレ女王陛下の生誕祭の日、つまりは今日なんだが、このヴェリナードを爆破すると脅迫の手紙が届いてな」
「何だって!?」
「安心してくれ。ここ数日、魔法戦士団の手も借りて、総当たりでくまなく調べた。既に爆弾が設置されている可能性は極めて少ない。となれば…」
「ふむ、なるほどね」
どうりで、検問などを敷いているわけだ。腰に手を当て頷きながら納得したマージンと対照的に、ややうっすらと不安を感じ始めるハクト。残念ながら、その予感は最悪の形で的中した。
「う、うわぁっ、た、隊長!大変ですっ!!」
幌の中を覗き込んだ若い警備兵が突然大声を上げる。「どうした!?」
「ば、馬車の中に、グレネーどりとさまようよろいがいますっ!それに大量のギガ・ボンバーがっ!!」
新兵は大量の危険物を前に腰を抜かしながらも、隊長に報告する。
「何だとっ!?貴様まさかっ!!皆、あつまれっ!!」
ピィィィッと非常事態を告げる笛の音が鳴り響く。
花火以外の危険物は絶対に積まない。ハクトは昨晩、一時間ほどかけて父に嘆願したはずだった。それなのにもかかわらず、だ。
笛の音に驚いた2体の魔物は、ヴェリナードの兵士を刺激しないようそろそろと、マージンのもとへと歩み寄る。グレネーどりのへいはちくんと、剣を持たず、両手にそれぞれ大きな盾を携えたさまようよろい、ではなく、さまよう耐爆スーツのマクレーン。彼らはマージンとハクトの相棒の仲間モンスターだ。人を傷つけることはけしてない。抵抗しないことを示すように、それぞれ機械の羽根とスーツの両手を挙げてアピールする。
「待って待って待って。皆落ち着けって。彼らはオレの家族だし、積み荷は、ただの爆弾だよ?」
この場において、これ以上威力のある言葉があっただろうか。
「貴様が脅迫文の送り主だな!?」
「いや違う違う、父さんはこんなだけど、それは違いますっ!!」
警備隊長とマージンの間に割って入り、ハクトが叫ぶ。
「じゃあお前たちが持ち込もうとしたその危険物は一体何なんだっ!」
「爆弾は友達。怖くない」
にっこりほほ笑むマージン。純真な笑顔とは裏腹に、その言葉に反応してずらりと兵士達が円陣を組んでマージンとハクトを取り囲む。
「父さんちょっと黙ってて!」
ハクトには本来敬愛すべき父であるが、サイコパスなんじゃないかと思わされる瞬間が多々あった。この局面で父のダークサイドをぶちまけられるのは、大変よろしくない。
「すまないが、穏やかにはいかなくなった。マージン、だったな。あらためて、質問させてもらう。職業は?」
「爆弾工作員(ボム・スペシャリスト)だ」
マージンの言葉に、ヴェリナード兵が一糸乱れず腰に下げた剣を引き抜くさまは、壮観ですらあった。
「父さんホントに黙ってて!!!」
このままでは父の巻き添えで自分まで、こんな若い身空で逮捕歴が付いてしまう。どちらかといえば、ハクトはそちらを心配していた。
「父さん、ほら、キーエンブレムだして!」
「おお、流石はハクト!それだ!!」
全大陸共通の身分証、キーエンブレム。各地を渡り歩くうち、決して少なくない数のそれを、マージンは取得している。百歩譲って、不審人物、ではあるが、決して件のテロリストでは無い事は証明できるかもしれない。
右ポケット。左ポケット。左太腿のポーチ。順番に手を差し入れたのち、にっこりマージンは微笑んだ。
「家に忘れてきちゃった」
精一杯かわいい表情でテヘッと舌を出すマージン。
「父さんのバカァァァ!!」
ハクトの絶叫がヴェリナードに響き渡るのだった。
続く