「…どうしてこうなった」
「オレとフツキは一蓮托生ってやつ?」
ヴェリナード城内の留置施設。同じヴェリナード内とはとても思えない灰色で無機質な空間の中に、マージンのみならず、関係者と判断されたフツキまでも、簡素な椅子に縛り付けられて待機していた。
ハクトがこの場にいないのは、彼の年齢を配慮しての事だ。ハクトがこの時、別室でレッドベリージュースを用意され、それなりに寛いでいたという事を知りうらやましいと口を尖らせたマージンだが、そのまま鬼の形相の妻ティードに耳を引っ張られて台所裏へ消えていった事はちょっとした蛇足である。
「お待たせしました。魔法戦士団副団長ユナティです。私が尋問を執り行います。あいにく団長は別件で忙しいもので」
扉を開け入室してきたのは、赤を基調とした魔法戦士団の装束に身を包んだ麗人ユナティ。
「身元は調べさせてもらいました。爆弾工作員マージンと、その相棒フツキ。状況証拠は疑いようもなくクロですが、腑に落ちない点もあります」
まずはこちらはお返ししておきましょう、とユナティはフツキのキーエンブレムをテーブルに置く。
「ワース山賊団を覚えていますね?」
「誰だっけ?」
「覚えてないのかよ…」
「そうは言われてもなぁ。フツキは今までコーヒー何杯飲んだか覚えてる?」
「俺の趣味と爆弾で吹き飛ばした相手を同列にカウントするんじゃない」
ついでに俺を呆れさせた回数も覚えていてほしい。徒労感にうなだれるフツキであった。
「ワース山賊団は我々魔法戦士団もアストルティアの治安を脅かすものとしてマークしていました。その壊滅に多大な尽力を頂いたお二方が、今度は我々に害を為そうとしている」
「いやいやマージンの野郎はどうか知りませんが俺はコーヒーを飲みに来ただけで…」
そこまで話して、フツキの脳裏に最高のコーヒーを無為にした苦い記憶が蘇る。どんよりオーラ全開のフツキと対照的に、マージンはじっとユナティの方を見つめ何やらブツブツとつぶやいていた。
「…かの有名な魔法戦士団副団長ユナティどの。ううむ…しかしこれは…いささか威力が足りないな…」
「…一体何を?」
マージンの言葉が理解不能だったユナティだが、自分の胸元に当たるマージンの目線に気付き、全てを完璧に把握した。
「刑は決まりました。だれか!ギロチンの準備を!!…いや、時間が惜しい。この場でその首跳ね飛ばしてくれよう!!」
「素晴らしい判断だと思います!まさに公正な裁き!!」
怒りのあまり口調まで変容するユナティに、合の手を入れるフツキ。
「ちょっとフッキー!?」
「だまれっ、お前は一度、その首落としてもらうくらいがちょうどいいんだ!」
「首は一つしかないんだよっ!?」
ユナティは椅子に縛られたままのマージンの襟首を掴むと、そのままテーブルの上へと叩きつけ、流れるようにサーベルを引き抜く。ウエディの女性、しかも小柄なユナティのどこにそんな力が隠されているのか。
「お、落ち着こうじゃないか、話せばわかる。それに貴女にもまだまだ成長の余地が…」
「~~~ッ!」
火に油、火事場に爆弾とはまさにこのことである。怒髪天を突いたユナティがマージンの首を切り落とさんとしたまさにその時。
「な、何だ一体!?地震!?」
突如鳴り響いた、耳をつんざく大きな音と、立っていられないほどの激しい振動。
「この音と振動の感じ。これは爆弾によるものだ。だがとりあえず、ここの近くじゃない」
椅子に固定されたまま派手に転がったマージンだったが、窮屈な姿勢ながらも掌を床にくっつけ、五感をフルに活用して冷静に分析する。
「貴方の仕業ですか!?」
マージンはユナティのような鍛えられた戦士でも気づかない、わずかに漂う火薬の匂いを敏感にキャッチしていた。
「断じて違う。この火薬の配合、人を傷付けるためのものだ。爆弾ってのはなぁ、鮮やかに散りゆく様こそ美しいんだよ。オレは、こんな爆弾を使う奴を絶対に許せない」
先ほどまで初対面の女性の胸しか見ていなかった男とは、まるで別人のようだ。マージンの真剣な瞳に、ユナティは信を置くことにした。
「爆弾工作員だと言いましたね。私の権限において、この際、変態の手でも貸してもらうことにします」
首を切り落とすつもりだったサーベルで、ユナティはマージンを拘束するロープを切断する。
「せめてギガ・ボンバーを回収したい所なんだが。仕方がない、手持ちでやるしかないか」
マージンは転倒した際にずれたゴーグルを調整し、拾い上げた帽子をキュッとかぶり直して気合を入れると、ギンガムマフラーをくいっと引上げ、口元を覆う。臨戦態勢を整えたマージンは、まだ縛られたままのフツキを残し、はるか遠くに見える黒煙の中へ飛び込んでいくのだった。
続く