「さて、本題の前に、今回ロマン様のもとへお話を運ばさせて頂いた理由なのですが…」
わずかに言いよどむセイロン。
「ロマン様のお噂はかねがね。しかし、決定的な理由は、私の友、ライティアの推薦によるところです」
「ああ、ライティアさんか」
ロマンの脳裏に、海底離宮で共に戦ったまさしく虎の如き武闘家の姿がよぎる。
「で、肝心のライティアさんは?」
全身を黄色い装束に身を包んだ武闘家の姿は、どう見てもこの場には見当たらない。
「それは、その…実は…無銭飲食で捕まってしまいまして」
「はぁ!?」
「今はその料理店、『虎酒家』にて、損害分の穴埋めの為に住み込みで働いております」
「一体どんだけ…」
「何でも、冷凍室にあった、その店名物のタイガーマンゴープリンを向こう1年分食べつくしてしまったとかで…」
とある草原の村にひっそり佇む、小料理屋『虎酒家』。
訪れた客人は、必ず最後に名物のデザートを注文する。
まるで果実そのものの様なしっかりとした食感とみずみずしさを持つマンゴープリンと、店主秘伝の配合による滋養に満ちた種々薬草の薄く黒い寒天の層を交互に重ねた、まるで虎の毛皮の様なスイーツは、冷凍保存が効くこともあり、大地の箱舟やグランドタイタス号、はては世界宿屋協会など様々な販路で取り扱われていた。
ロマンもまた、依頼人からの返礼の品で、一度口にした記憶がある。
マンゴーの弾ける甘さと、絶妙にブレンドされた寒天の大人の苦みが調和した、秀逸な品だったと記憶している。
「なんとまァ…。で、経緯はともかく『OZ』に足を運んだってことは、何か建ててほしいって話なんですよね?」
一つ一つがなかなかのボリュームだったタイガーマンゴープリンを一年分飲み込む宇宙の様な胃袋に想いを馳せながらも、話の先を促すロマン。
「その通りじゃとも。ユルール達から聞いておるぞ。海底離宮の折の、え~、何じゃっけ?え~と、アルティメット・アーマード・エグドラシル・ミリティアル・シュウマイ・カスタム…」
顎に手をあと小首を傾げ、何とかユルール達から聞き及んだ、海底離宮攻略戦の橋頭堡となった移動要塞の名を思い出そうとするホーロー。
「ホーロー様ホーロー様、えぐみマークツーです」
傍らの少女がクイクイとホーローの袖を引き、助言する。
「おお、そうじゃったそうじゃった!えぐみマークツー!!」
「何かシュウマイ混じってたけど正式名称あと一息だったじゃん!?まぁ、いいですけどォ…」
海底離宮にて建築した渾身のレジデンスを、自ら命名したかっこいい名前でちゃんと呼んでもらえるかと思った矢先、残念な横槍に肩をすかされ黒曜石のテーブルに突っ伏すロマンであった。
続く