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幻列車の浪漫、実は初期プロットではテルルさんの参戦はありませんでした。
この話は、その際に眠りに落とされたハクギンブレイブがどのようにして夢を打ち破る予定だったのかというくだり。
いわば幻の第28話でございます。
テルルさんをお話にお借りするにあたり没にすることを決めたのですが、もったいないお化けが出まして。
セ~クスィ~さんにだけメールで送るとかいろいろ考えましたが、この場を借りてアップさせて頂きます。
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「どうした?まさか緊張しているのか?」
「えっ?あ、いえ、大丈夫です」
言葉とは裏腹に、どうにもはっきりしない頭で、ハクギンは状況を確認する。
体に伝わる振動。
どうやら、サイドカーに座っているらしい。
「まあ、無理もないか、今日が正式メンバーとしては、初の出動だ。しかし幸か不幸か、初陣というわけではないんだ。だから肩の力を抜け。…何なら、今日は止めておくか?」
「いえ、大丈夫です。いけます!」
窮屈なシートから斜め上を見上げると視界に飛び込むのは、燃え盛る炎のような赤髪を風にたなびかせる、リーダーの背中。
「了解した。超駆動戦隊ドルブレイブ、6人目のメンバーとして、期待しているぞ」
そうか、そうだった。
セ〜クスィ〜さんやティードさん、あの時助けたグレンの兵士たち。
皆がとりなしてくれたおかげで、バグド王の恩赦が貰えて。
罪を許された僕は、あらためて…憧れのセ〜クスィ〜さんと、肩を並べて戦う道を選んだんだった。
セ〜クスィ〜さんには本来、専用のドルボードがあるのだが、僕の専用機が出来るまで、私用のドルブレイドを改造したサイドカーに僕を同乗させてくれている。
「さて…そろそろ報告にあったモンスターが暴れているあたりのはずだが…むッ!?ハクギンブレイブ、翔べ!」
橋の付近で停車していた所、迫りくる気配を察知したアカックブレイブは、素早くハンドル中央の接続解除ボタンに拳を叩き付けた。
ボシュッという空気圧が爆ぜる音と共に、ハクギンブレイブの乗る側車部分が分割され、横に飛ぶ。
転倒する間際、ハクギンブレイブは飛び退ってその場を離れた。
アカックブレイブもまた、連結解除の反動を活かす形で、あとは筋力で無理矢理に、前輪を起点に後輪で円を描くが如くドルブレイドを反転させる。
ちょうどその空いた空間に、古代文字の刻まれた赤く巨大なハンマーを振り下ろしながら飛び込む巨体。
その姿を覆い隠すほどの土煙が巻き起こったのは、巨大な敵の落着の衝撃か、はたまたアカックブレイブのドルブレイドの強引なドリフトが地を抉った故か。
やがてすっかり視界が晴れて現れたのは、一体のトロルだった。
しかし、見慣れたトロルと異なり、両手に同じ形状のハンマーを握り、本来つるっとしている筈の頭皮には、わずかながら赤い頭髪が確認できる。
「…ルナ………ヲム…タタ…」
その目は血走り、牙の並ぶ口許からはうめき声が漏れている。
「街道の安全を乱しているモンスターとやらは、貴様だな?成敗してくれる!!」
アカックブレイブがドルブレイドの両グリップを引き抜くと、グリップはそれぞれスライドして長さを増す。
ドルブレイドからひらりと舞い降りたアカックブレイブが延伸したグリップの端を繋ぎ合わせると、それぞれの先端から鋭い槍の穂先が飛び出した。
「ハクギンブレイブ、ここは私に任せて、下がっているんだ!」
流れるような動作でツインランサーを振るい、トロルと切り結ぶアカックブレイブ。
「…ゲルナ……エヲ……タタ…」
ガィン、ガィンと、まるで巨大な船舶同士がぶつかり合う様な、地響きの如き衝突音を響かせながら、ハンマーとツインランサーが眩い火花を散らす。
続く