闘いは終始、アカックブレイブが圧倒している。
ハンマーの鈍重な軌跡を抜い、幾度も幾度もツインランサーがトロルの体をかすめ、鮮血が噴き出すが、トロルは一向に怯む様子を見せない。
その瞳は、目の前のアカックブレイブではなく、ずっと、ハクギンに向けられていた。
「ニゲルナ!マエヲムケ!タタカエッ!!」
最初は聞き取れなかったトロルの声が、今ははっきりとハクギンの耳朶を打つ。
「ハクギンブレイブ!敵の言うことに耳を貸すな!君は私が守ってやる!!」
いや、違うだろう。
滑稽すぎるセリフに、ハクギンは流石に苦笑を漏らした。
セ~クスィ~さんは、アカックブレイブは、決してそんなことは言わない。
厳しい戦いに傷付く結果が待っていようとも、果ては、敗北することが決まっている闘いであろうとも。
アカックブレイブが、誰かの戦いを奪うことは、決してない。
彼女はいつだって、横に並び立ち、共に戦ってくれるのだ。
「お前は、偽物だ!」
霧が晴れる様に、アカックブレイブの姿は消え失せた。
何もない純白に包まれた世界に、無残に傷付き、だらりと両手のハンマーを垂らして、肩を揺らして大きく息をするトロルのみが残される。
今にも倒れそうな無残な姿でありながら、その手は決してハンマーの柄を手放さず、瞳は闘志を滾らせ続けていた。
憧れの、あの人の様に。
「ありがとうございます、アカックブレイブ」
2度、3度、ハクギンが瞬きをするうちに、トロルは懐かしいアカックブレイブの姿を取り戻した。
「また、ご迷惑をおかけしました。もう、大丈夫です」
「そうか。私が君と共に戦えるのは、ここまでだ。まだそちらへ、行ってやる事はできん」
「当り前です。まだ来ないでください。来たら怒りますよ?」
目の前のアカックブレイブも、きっと自分の思い描く、都合のいい幻影なのだろう。
「この先の戦いも、熾烈を極めるだろう」
「はい」
「だが、私は君を信じている。頑張れ!ハクギンブレイブ!頑張れ!!」
「はい!!」
木霊するアカックブレイブの声に後を押されながら、ハクギンの意識は急速に覚醒へと向かったのだった。
深夜のガタラ原野を疾走する、ドルボードと呼ぶにはいささか大きい、白い車両。
その中では、緊急通信を受け取り、自ら重病人搬送用ドルボードを操舵し現地に駆け付けたおきょう博士が、手にした操作盤からテキパキと治療用アームに指示を出している。
中央のベッドには、先の任務で傷付いたアカックブレイブが意識を失い、横たわっていた。
プクリポのおきょう博士に合わせ、嵩上げされた床やカスタマイズされた各種設備を備えた車内に横たわる大柄なアカックブレイブの姿は、さながらおとぎ話のガリバー旅行記の一節のようである。
「…がんばれ…がんばれ」
「…あら?目が覚めたのかしら?」
ふと、アカックブレイブの声が聞こえてバイタルモニターに目を向けるおきょう博士。
「…ふむ。流石にまだ無理よね…。ゆっくり休みなさい、アカックブレイブ」
「がんばれ…がんばれ…」
ガラス製の酸素マスクを白く曇らせ、わずかに微笑みを浮かべながら、アカックブレイブのエールは、途切れることなく続いたのだった。
~了~
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本当はお話が全部完了してからアップするべきかとも思いましたが、ハクギンの夢のお話のタイミングに合わせて掲載させて頂きました。
セ~クスィ~さんをお借りしておきながら申し訳ないですが、あくまでも没ネタです。
お話に関係ないネタとしてお楽しみいただくもよし、実はハクギンが列車に乗り込む前にこんな件があったと差し込んで頂くもよし、捉え方は皆さまにお任せさせて頂きます。
ちなみに作中登場したトロルの正式名称はセ~クスィ~トロ~ルです。
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